第83話 彼女が私にこだわる訳

イタス島に戻って、ガント王国のトコブシ王女と合流した。

顔がばれるのは避けたいので、黒い布で顔の下半分を隠してフードを被っている。


「お帰りなさいませ」

「お待ちしてました」


王女、メルカたち6人は平常モードだが、足元には何人もの兵士たちが転がっている。恐らく彼女らを冤罪で捕縛しに来た第三王子の配下だろう。


「メルカ、やっぱりあなたたちは強かったんだ」

「サーシャさんを見て自信をなくしそうになりましたが、私も一応は国内では槍の達人と呼ばれています」


なんて話をしていると、すごい勢いでトコブシ姫が寄ってきた。目が怒っている。


「サーシャさん!」

「なに・・」

「この半日間、私達を島に残して何をしておいでですか」


トコブシ姫が突然、高圧的な態度になった。外に出たとたん、女王の威厳でも見せつける気か。


「あんたには関係ない」

「あります。サーシャさんから違う女の匂いがします。それも濃厚に。悔しい!」


「へ? どゆことメルカ」


「あの・・。今回、姫に同行した5人はみな姫の「女」なんです」


「あ、そういう性癖の持ち主なんだ」

「サーシャさんに土下座した理由も、国民のために3割、好みの女を引き留める目的が7割といったところでしょうか」


何だ、この展開は。貴族は嫌いだけど、民のために頑張る姫ではないのか。


「サーシャ様、どこかの島に女を囲っておられるのですか」

「いや、きちんとした伴侶だよ。あ・・」


「どこの女ですか。私というものがありながら・・」

「私達、今日が初対面だよね」


腐れ姫だよこいつ・・。


私とゲルダは、女女でも男女でも愛し合っているが、二人とも過去に男がいた。どちらも死に別れたが、基本はノーマルだ。こういう純粋な百合の方の気持ちは分からない。


「私が討伐の同行者をトコブシ姫でなく、メルカに頼んだときショックを受けていたのは、私が思っていた理由とは違う訳ね」

「はい。姫は自分の好みの女に振られた上に、自分の女まで取られる。それで落ち込みました。その程度の人間なのです」


「メルカ、あんたも女が好きなの?」


「私を苦しい生活から救って恩を抜きにしても、姫が大好きです。ですが、私は結婚するなら、普通に男がいいです」


「沼レベル6」は悪意なき変態まで呼び寄せそうだ。トコブシがちょっと怖いから、早く脱出したい。


「頭痛くなってきた、私、このままペンギン退治に向かうよ」

「私も。姫の嫉妬がすごいので、ほとぼりが冷めるまでサーシャさんと同行させてもらいます」


誰もいない海岸に行って、ミスリル風呂船を出した。本当の動力は「小沼」だけど、「闇精霊」と言ったら、メルカは簡単に信じた。


「これを動かすから、貴方の国に連れて行って」

「すごい。時速100キロくらい出ている。それにこの船、浴槽にしか見えないのに」

「動力が精霊の力だから、スピードに耐えられるものなら何でもいいんだよ」

「すごく参考になります」


メルカは強烈な体幹をしている癖に、船の中でよろけたふりをして私のデカパイを触ろうとする。


沼様は反応しないけど、ヤバい。


船で水面を突っ走ること一日、ガント王国の西にあるネルボル島に到着した。



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