第72話 サーシャ レベル2の攻防
「はっ、あ、いで、で」
寒さと顔、腹の痛みで目が覚めた。
薬草採取中に貴族家跡取りのナルタに捕まった。逆恨みだ。
今は室内。恐らくナルタが言ってた貴族家所有の小屋だ。外から見たことはあるけど、初めて中に入った。
質素なベッドに転がされ、素っ裸にされていた。
手足は縛られていたが、幸いに手は前で縛られているし、紐は細い。実際に非力だから、こんなのも解けないけどさ・・。
ナルタはズボンを脱ごうとしていたが、きちんと棚があり、すでに上着は折り畳んで入れてあった。手慣れてる。
常習犯だ、こいつ。
私に背中を向け、ズボンのベルトを外していた。
私はこのチャンスを逃さないように、奴が知らない「空間収納微小」からナイフを出した。いつも通りナイフ1本、スコップ3本、石3個が入っている。
縛られた左手の中、逆手にナイフを出すと、紐と一緒に手のひらにもナイフが当たり、血が出た。
痛みを我慢して紐にギリギリまで切れ目を入れて、またナイフを空間収納にしまった。
まだアクションは起こせない。
私は痩せた身体をしたレベル2。
ナルタは185センチ。レベル10程度らしいが、体格、レベルのハンデは大きい。
「なんだ、起きてたのか」
「もう済んだ?終わったんなら紐を解いて帰らせて。黙ってるから」
「まだだけど、帰せないね。取りあえず、しばらくこの小屋で暮らしてもらう」
「もう秋よ。裸で1日だって過ごせる時期じゃないわ」
「じゃあ、今だけ暖めてやるよ。あはは」
最終的には殺す気だ。全力で抵抗するしかない。
「この馬鹿息子、くらえ」
奴は裸で私の腹の上にまたがった。だから、切れ目を入れていた紐を引っ張って手を広げ、空間収納から左手にスコップを出し、大振りで顔の前を振りまくった。
もちろん奴は手首を捕もうとした。そこで本命の右手にナイフを出し、静かに下から滑らせた。そして、確実に戦意を刈り取れそうなものにナイフを向かわれた。
ザクッ。サクッ、サクッ。
硬くなっても所詮は柔らかい、ナルタ君のアレに堅めの薬草の茎を刈るイメージでナイフを振った。
ばしゃっ。
ぼたぼたぼた。
ほどよい長さに股間から伸びたアレに、ナイフが面白いように当たった。太ももにも当たって血が吹き出た。
「うが、がが、何するんだ。あがあっ!」
私は転がってベッドから落ちる前に、首元にナイフを振った。落ちて打ったお尻は痛かったが、足の紐を切って素早く立ち上がった。
ちょっと話した冒険者は「ヒト型」に刃物を振るえるかどうかで、冒険者の適正が分かると言った。
「私に適正はあるみたいね。スキルはないけど」
「殺してやる・・」
「・・そう」
ぽたぽたぽたぽた。
こいつを死なせたら助かるのか、それとも生かしてたほうがいいのか、正直分からない。
ただ、太ももの血管も切れたようで、出血が激しい。
ぽたぽたぽた。
「ち、治療をさせてくれ。服の中に入っているポーションを取らせてくれ」
「・・」
奴が私の無言をどうとらえたのだろうか、後ろを向こうとした。だから、大きさ8センチの丸石を出して、ナルタの頭に投げつけた。
がきっ。
「がっ」
次の石を出して構えた。
場は再び膠着した。
傷は少ししか増えないけど、ナルタ君の血を確実に奪っていく。
最後の足掻きでドアに向かったのは素直に許した。
「誰がいないのか・・」
外を歩いて助けを求めるが、すでに足元がよろけているナルタ君に教えてあげた。
「今日は誰もこの辺りにいないよ。1日30000ゴールドのいい仕事がらあるから、そっちに行ったんだって」
「あっ・・。サ、サーシャ、助けてくれ。許してくれ」
「強姦して殺そうとした相手に命乞い? そんなやつ、あんたが初めてだよ」
やがて倒れたナルタ君。もう息絶え絶えだけど放置。日が暮れれば夜行性の肉食魔獣も出てくれる。
この街の冒険者では、夜の森には来られない。
「遺体が残らないよう、魔獣が片付けくれますように」
急いで服を着て、自分の家に帰った。
だけど、落ち着くと身体が震えだした。
吐き気もした。
ナルタの顔がちらついて、朝まで眠れなかった。
レベルは2から4に上がっていた。
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