第71話 底辺サーシャの危機

イレギュラー召喚の2ヶ月前、貴族家の跡取りナルタとのトラブルから2日がたった。


貴族家なんかに関わったことがない私は、「人前で恥をかかされた恨み」なんてものに無頓着すぎた。


短時間で罠が張られているとは思ってもいない。


薬草の採取場に行くと、私1人だった。


普段はなんとなく5人くらいがお互いに見える位置にいる。そうすれば、ゴブリンやホーンラビットに対処できる。


「たまには、こんな日もあるか。ま、薬草は独り占めだな」


唯一のスキル、空間収納微小からスコップを出した。薬草は根っ子まで煎じて使うが、根こそぎ採取すると次が育たない。


スコップで丁寧に土を掘りながら採取していると、草むらから音がした。


ガサッ。ガサガサ。


振り向くと、貴族家跡取りのナルタと汚い格好をしたゴロツキ2人が立っていた。


ヤバい。いつもの好色より、怒りを感じる目。


「こんにちはサーシャ君」

「・・こんちは」


ヤバい、ヤバい。


「周りを見ても無駄だよ。この辺を稼ぎ場にしてる冒険者はみんな、今日は違う仕事をしてる」


「違う仕事?」


「そう、ある貴族家別邸の掃除で、1人20000ゴールドと賃金がいい」


「誰も来ないようにしたのね。そこまでしてなんになるのよ」


「2日前、君のせいで僕は父上にまで怒られてね、すごく恥をかかされた。お仕置きしたくてね」


平静を装っているが、心の中でアラームが鳴りっぱなしだ。

ヤバい、こいつ本気だ。


逃げたいが、私は3年近く冒険者をして、やっとレベル2。


ゴロツキもレベル10はあるだろう。


まさか、殺される?


思いきって逃げたい。


だけど、敵3人が街の方に向かう道を塞ぐようにして立っている。森の奥に逃げるのは自殺行為だ。

奴らの間を抜けるしかない。


前にゴブリンから逃げたときのように、土を顔にかけてダッシュ。


どっ。


1歩目を踏み出した瞬間に腹を蹴られた。


「うぐっ、ごほっ、ごほっ」


「あんまり殴るなよ。特に顔はダメだ。この先の小屋に連れ込んでヤルときに萎えるからな」


「分かってますよ。デスラさんに女の捕獲の仕方をうるさく言われてますから」

「デスラさんは、坊っちゃんと別の場所に狩りに行ったことにして、アリバイ作りでしょ」


「そろそろ小屋に連れていけ。表向きは狩猟の休憩所だけど、有効利用できてるよな」


「本当に運んだら帰っていいんですか?」

「いいんだよ」

「その女が魔法とか使ったらまずいですよ」


「大丈夫だよ。ギルドでも確認した。スキルなしの底辺。そんなやつが僕相手に恥をかかせやがった。このっ」


バチィ、バチッ、バチッ。


顔はやめろとゴロツキに言いながら、跡取りはビンタしやがった。


スキルなら「空間収納微小」を持ってる。ショボすぎて申請してないだけだ。


言う間もなく、ビンタを何発も食らって意識朦朧となった。


手足に何かで縛られ、どこかに連れていかれるとこまで覚えていた。


悔しい。無力って罪だ。


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