第70話 イレギュラー召喚の2ヶ月前
墓参りのため故郷の街に来たのに、領主の「次男」にナンパされた。
ウザい。
「噂は聞いてるわ、坊っちゃん。8歳上のお兄ちゃんが行方不明になって、繰り上がりの当主候補でしょ」
「なっ」
「旅で知り合ったこの街出身の冒険者に聞いたの。女癖が悪い元当主候補が女を襲ったとき、行方不明になったそうよ」
「ゆ、行方不明になったが、そんないきさつとは、知られてない・・」
私が「イレギュラー召喚」をされる2ヶ月前の話をしている。
人も集まってきた。
「森の中のポロトフ家が管理する小屋で犯され、仕返しに長男を殺したった言ってた。暴行殺人の常習犯だから、心は痛まなかったってさ」
ざわ。
ざわ、ざわ。
どよどよどよどよ。
「だ、誰がそんな話を」
「サーシャ。旅で知り合った、この街で育ったE級冒険者」
どよどよどよ。
「なっ、なな」
「だから、あなたも気を付けなさい」
通り過ぎるときに、護衛の1人につぶやいた。
「デスラ、あなた今度は次男の手下になったのね。またご主人様を悪の道に誘い込んでるの?」
そう、私は沼で人を殺すときに何も感じない。なのにゲルダが初の殺人に手を染めたとき、受けたショックと心情は分かった。
なぜか。
それはすでに、「沼」を手にする前に人を殺していたからだ。
◆◇「沼」を得る2ヶ月前のサーシャ◇◆
仲良くなって関係を持った男がオークに殺されてから数ヶ月。
またいつものように、薬草を摘んで街中に入った。ゴブリン狩りの冒険者パーティーに便乗させてもらい、ちょっと森の奥に入れたから薬草も多く採れた。
冒険者に便乗したのは私を含めた顔見知りの3人。普段より稼げたから、ギルド併設の食堂でエールと焼きウサギセットを頼んだ。
一週間ぶりの贅沢だ。
「カンパーイ。今日は稼げたね」
「エールも、もう一杯くらい飲めそう」
「私はエールより、焼きウサギかな」
ふいに声をかけかれた。
「ねえ、一緒に飲まない?」
ちょっと場違いな、きれいな服を着た3人組が声をかけてきた。
私達は顔をしかめた。
「また来たんですか跡継ぎ様。立派な護衛のお二人も含め、場違いですよ」
「いやいや、次期当主としては、街の隅々まで把握しておかないとな」
言葉の裏側の「帰ってくれ」を理解してくれない。
私はこの辺では珍しい銀髪。北の国の王族にいる「銀髪美人」が美の象徴になっているが、私は化粧をしたとろこで十人並み。
領主の跡取りが私にこだわるのは、単に珍味を食べたいだけだ、。
ちょうど、酔った冒険者が大声を出した。
「女とやりたきゃ娼館でも行きなよ。金けちんなよ」
「ナルタ様に無礼な!」
「やめろデスラ!」
バチィ。
殴られた冒険者の知り合いは椅子から転げ落ちて倒れた。
すぐにギルド職員が飛んできた。
「ナルタさん、貴族法が変わったのはご存知ですよね。たとえ貴族であっても、護衛を使いギルドに所属する冒険者を害するのは重罪です。多くの人が目撃しています」
次の日、50万ゴールドもの大金を持って、貴族家から「示談」を申し出てきた。
殴られた冒険者は喜んで受けた。
ひとまずトラブルは終息したように見えたが、メンツを気にする貴族の執念を知らなかった。
貴族家の跡取りナルタ君は、私のせいで公衆の面前で恥をかかされたと思っていた。
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