第66話 早くも寄ってきた火種
絶対に行く気もないのに魔国に行く約束をした。
だって、受けたふりをしないとジュライは引き下がらない。
私と自分の立場の違いを分かっているようで、1パーセントも理解していない。
ジュライは名門デビルギルドの副ギルマスを努めるような逸材だ。育ちもよくて、今の地位に立つまでに正当な道を歩いてきたに違いない。
本人は自覚がなくても、魔王様や有力者の後ろ盾とネットワークを自動的に持っている。
ブライト勢力の監視がいることも気にしない。
対して私は「にわか強者」だ。
貴族なんかと正当に戦う力はない。
もしも魔王様を手伝ってブライト王国の「膿」を出すことに一役買っても命の保証さえない。
反魔王、親ブライト、場合によっては魔王派からも狙われ続けるかもしれない。
「沼」とはそんな性質のものなのだ。
◆
ギルドから宿に向かっている。
ジュライには新しい身分証を作ることと監視なしを約束させた。
「サーシャ」の名前で国境の検問を越えたくなかったから、そこだけはジュライが役に立つ。けどイラつく。
暗がりの路地裏に入った。レンガ作りの壁に囲まれた分かりやすい罠だけど、高確率で敵が引っ掛かる。
「あのさ私、機嫌悪いの。黙ってどこかに行きなさい」
路地の出口をふさぐように8人の男が現れた。
前後に4対4。
『サーシャ、盗賊が来たと期待したが違うな。お前に対する欲望よりも使命で来てるな』
「沼様、なんか政治とか宗教めいたものの絡みかも。そっち送れないよ」
『いらんよ』
「姉さん、さっきギルドで話してた男は知り合いか?」
「うんにゃ。ナンパ。だから。あんたらも帰って」
「何を話してた」
「聞こえないの? 帰りなさい」
私や私のエロボディーが招く厄災ならいい。
これは完全に私が立ってはならない土俵に立たされるパターンだ。
ゲルダとの未来に危険要素が加わり、腹が立ってきた。
原因のジュライに今は勝てないが、殺してやりたい。
「か、え、れ」
魔鉄棒を出した。
「捕まえろ、話しにならん」
「おう」
「小沼20センチ。4個」
ぽちょ、ぽちょ、ぽちょ、ぽちょ。
暗がりに紛れて小沼が走る。
「え、あれ?」
「うわっ」
ゴンゴンゴンゴン。ドゴッ。
「小沼解除」
前にいた男4人の足を取り、魔鉄棒で横なぎにした。棒はレンガの壁にめり込んだ。
「武器が止まったぞ、今のうちに無力化するぞ」
残り4人が飛びかかってきた。
「泥団子15センチ。左手に出て」
ぺちょ。
1人目が右手のナイフで腕を狙ってきた。高レベルの私には、相手の動きがスローモーションに見える。
そいつの腕に泥団子を張り付け小沼発動。
「は?」
ばきっ。ブチブチブチッ。
そのまんま胸に一発食らわすとのけ反ったが、そいつの腕は同じ位置。引っ張られた腕の筋肉が裂けて、血が吹き出した。
「ぎゃああああ」
「むしゃくしゃする。残り3人も「空中固定パンチ」の餌食にしてあげるわ」
襲撃者の監視がいても恐怖だけが伝わるように、8人とも這うことさえできないようにして帰った。
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