第66話 早くも寄ってきた火種

絶対に行く気もないのに魔国に行く約束をした。


だって、受けたふりをしないとジュライは引き下がらない。


私と自分の立場の違いを分かっているようで、1パーセントも理解していない。


ジュライは名門デビルギルドの副ギルマスを努めるような逸材だ。育ちもよくて、今の地位に立つまでに正当な道を歩いてきたに違いない。

本人は自覚がなくても、魔王様や有力者の後ろ盾とネットワークを自動的に持っている。


ブライト勢力の監視がいることも気にしない。


対して私は「にわか強者」だ。


貴族なんかと正当に戦う力はない。


もしも魔王様を手伝ってブライト王国の「膿」を出すことに一役買っても命の保証さえない。

反魔王、親ブライト、場合によっては魔王派からも狙われ続けるかもしれない。


「沼」とはそんな性質のものなのだ。


ギルドから宿に向かっている。


ジュライには新しい身分証を作ることと監視なしを約束させた。


「サーシャ」の名前で国境の検問を越えたくなかったから、そこだけはジュライが役に立つ。けどイラつく。


暗がりの路地裏に入った。レンガ作りの壁に囲まれた分かりやすい罠だけど、高確率で敵が引っ掛かる。


「あのさ私、機嫌悪いの。黙ってどこかに行きなさい」


路地の出口をふさぐように8人の男が現れた。


前後に4対4。


『サーシャ、盗賊が来たと期待したが違うな。お前に対する欲望よりも使命で来てるな』


「沼様、なんか政治とか宗教めいたものの絡みかも。そっち送れないよ」


『いらんよ』



「姉さん、さっきギルドで話してた男は知り合いか?」

「うんにゃ。ナンパ。だから。あんたらも帰って」


「何を話してた」


「聞こえないの? 帰りなさい」


私や私のエロボディーが招く厄災ならいい。


これは完全に私が立ってはならない土俵に立たされるパターンだ。


ゲルダとの未来に危険要素が加わり、腹が立ってきた。


原因のジュライに今は勝てないが、殺してやりたい。


「か、え、れ」


魔鉄棒を出した。


「捕まえろ、話しにならん」

「おう」


「小沼20センチ。4個」


ぽちょ、ぽちょ、ぽちょ、ぽちょ。


暗がりに紛れて小沼が走る。


「え、あれ?」

「うわっ」


ゴンゴンゴンゴン。ドゴッ。


「小沼解除」


前にいた男4人の足を取り、魔鉄棒で横なぎにした。棒はレンガの壁にめり込んだ。


「武器が止まったぞ、今のうちに無力化するぞ」


残り4人が飛びかかってきた。


「泥団子15センチ。左手に出て」


ぺちょ。


1人目が右手のナイフで腕を狙ってきた。高レベルの私には、相手の動きがスローモーションに見える。


そいつの腕に泥団子を張り付け小沼発動。


「は?」


ばきっ。ブチブチブチッ。


そのまんま胸に一発食らわすとのけ反ったが、そいつの腕は同じ位置。引っ張られた腕の筋肉が裂けて、血が吹き出した。


「ぎゃああああ」


「むしゃくしゃする。残り3人も「空中固定パンチ」の餌食にしてあげるわ」


襲撃者の監視がいても恐怖だけが伝わるように、8人とも這うことさえできないようにして帰った。



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