第65話 余計なトラブルを持ち込む者
「人食い水魔法のサーシャ」は私の偽装で死んだことになってる。
穏便にブライト王国を出たいのに、魔国から調査に来たジュライが待っていたようだ。
恐らく、私が3メートルの熊と素手で殴り合うのを目撃した女冒険者から話が行って、当たりを付けていたのだろう。
ジュライは私より強い。それに私には、デビルギルドで副ギルマスなんてやれる人と駆け引きする頭はない。
素直に情報交換をしよう。
「ええっと、ぶっちゃけ当事者よ。聞きたい話を教えて。そして何がしたいの」
「話が早いね、一番困難だと思っていた君との接触がスムーズに済んで助かるよ。こっちもジョーカーから切ろう」
「急展開だけど、強制的にブライトで何かをやらされるのは嫌だよ。出国したいんで」
「う~ん、困った。ジョーカーというのは、場合によっては君に魔王様の話を伝えてブライト王城に行って欲しいんだ」
「そこ保留で。私に会うために待っていたということは、情報は細かく集めたんでしょ」
「うん、君たちの襲撃は途中で50日以上も空いて調査する時間もあったしね。サーシャの役割は「白銀騎士ナイト」だよね」
「うん」
「で、もう1人「赤いサーシャ」がいた。けど、彼女は遺体で見つかっている」
「マツクロ子爵邸で死んでるものね」
「けど本当は生きてる?」
「うん。だけど、なんで彼女と会いたいの?」
「当事者の君の前で言うのはアレだけど、今回の襲撃事件は異様なんだ」
「ただ、赤いサーシャの敵討ちを手伝って、マツクロ子爵家を滅ぼした。私は余計な追っ手がうっとおしかったから、「死の偽装」を手伝ってもらった。そういう協力関係」
「魔王様が知りたいのは、戦いの手段。調べたところ、マツクロ子爵が亡くなっている。そして子爵邸で兵士の遺体が5体ほど見つかった」
「子爵を倒して、仇討ちに成功したのよ。だから「彼女」は去った」
「調査結果が異様なんだ。冒険者ギルドの調査力を知っているかい」
「なんとなく。ルークやペルタ様を見てたら分かった」
「ブライト王国は冒険者ギルド支部が1つしかない危険な国。だから情報収集は綿密に行っている」
「それが私にわざわざ目をつけた理由に結びつくの」
「今回、君たちの襲撃で「死んだと思われる」人間は、200を越える」
「そのくらいで合っていると思う」
「なのに、遺体がマツクロ子爵とその四男、五男、そして数人の兵士しかなかったそうだ」
「召喚獣がいたから食べたのよ。遺体も収納指輪に入れれば見つからない」
「戦いの跡も調べた。それは戦いというか蹂躙の痕跡があった。だけどね」
何が言いたいか分かった。「沼」の本質に向かっている。この男と2度と接触しないのが正解だ。
「それ以外の行方不明者の痕跡が、どこかで途切れているんだ。子爵家にいたはずのマツクロ家三男、神器持ちの男女2人。歩いていて、突然に消失したように何もなくなっている」
「それは私の仕業ではない。一年以上前からギルドでも情報をつかんでた人食い水魔法の使い手、「赤のサーシャ」の仕業よ。偶然に出会ったの」
ジュライが疑念を持った目で見ている。ルークほど広い視野は持っていないようだ。
「力になれなくて悪いけど、彼女とは別れた。お互いの安全というかリスクを減らすため、行き先も連絡先も交換していない」
「痕跡ごと敵を消せる魔法使い・・。魔王様が世界平和のために探していたのに、また空振りか」
「魔王様が探している」は気になるが、私のスキルが使われたことへの手がかりを持っている。
乗ったふりをしよう。どうせ私は卑怯者だ。
「私が魔国に行って、魔王様に会ってみたいのはルークから聞いてるよね」
「まあ、さわり程度は」
「どうせ、トラブル体質なのもルーク経由で知っているよね」
なんだこの、私が魔国に行く流れは。
これで腹は決まった。
絶対に魔国には行かない。
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