第51話 追手という名の獲物

特級ダンジョン1階で追っ手が待ち伏せしてる可能性がある。


準備万端で18人の冒険者の前に姿を現すけど、追っ手じゃなかった場合のことを考えて、カツラと布マントで「男装」をした。


まあ無駄だった。


「お?誰か顔を見せたぞ。あいつがターゲットか?」


あからさまだ。正しい情報をもらえず、こちらが圧倒的に強いことが分からないのだろう。


こいつらから強者のにおいがしない。


前に戦ったブライト裏ギルドから来た190センチーリーダーのやり方と似てる。


「これはうかつにスキルを見せない方がいいね。ゲルダの方に帰ろう」


転移装置の近くにいるゲルダの元に行った。


「どうしたのサーシャ」

「うん、特級ダンジョンに入った人間を追ってくるには18人とも弱すぎる。罠だと思うの。ゲルダ、探知に誰か引っかからない?」


「ん・・いた。18人の塊の200メートルくらい先、出口付近に魔力が多いのが3人待機してる。魔力量からしてレベル60から70くらいかな。私の探知の精度も半日で上がってるな」

「偵察かアタッカーか分からないけど、そいつらがメインで私達を探ってるね」


ゲルダは能力的にも私と相性がいい。


「よく分かったねサーシャ」

「探知では分からなかったけど、前に同じパターンで手の内をさらされた。それが、いい教訓になったのよ」


「そっか。囮が弱いっていってもレベル40くらいある。私からしたら高ランクだけど、このダンジョンに40で入るのはおかしいよね」

「そういうこと」


「どうしようか」

「こっちから仕掛けよう。ゲルダはそのまま白銀騎士で、私が赤い殺人鬼の方に変身する」

「それじゃ、本物のサーシャが身ばれしちゃう」

「とりあえずフードを被って、アイマスクするから。ゲルダは私の近くから水魔法をお願い」


敵は18人いるが、特級ダンジョンの中で無闇に仕掛けてこない。


ダンジョンの角を左に曲がって奴らの前に出る前に高さ3メートルのコンテナを出し、ゲルダと2人で乗った。

そうやって姿をさらした。


「何の用かしら。お兄さんたち」

「おめえらが、でかいコンテナ出すから通れないんだよ」

「ずっと前から控えていたくせに?」

「う、うるせえ。おとなしく付いて来い」


「ちょっと支離滅裂。せめて小芝居くらいうまくやってほしかったわ」

「まさに、捨て石なんだ」

「じゃあ、あいつらに向かって手をかざすからウオーターボールを4発ほどお願い」


ジュバッ、ジュバッ、ジュバッ、ジュバッ。


「なんだ、そのちゃちいウオーターボールは」


ぼそっ。

「沼の底から、鰐とトカゲの召喚」


ぼっちょ~ん。どっすーん、どすん、どすん、どすん。


満腹でなさそうな7メートルの鰐3匹、5メートル級のトカゲ6匹を幅10メートルしかない通路で出した。

ある程度念じれば、鰐達の向きも決められるから便利だ。


バグッ。ガリッ、バギッ。


何度か「召喚」され、満腹になる前に「回収」された爬虫類たちは学習した。

「食えるときに食う」


すごい勢いで「盗賊・仮」たちに食いつき始めた。


「逃げろ、子爵の三男からこんなの聞いてねえぞ」

「うぎゃああああ!」

「こいつら動きがはええ」

「追いつかれる。三男にだまされたぞ」


「子爵の三男? こいつらクロね。どうせ人殺しだろうから、自分が殺した人間の痛みを味わいなさい」

「それよりゲルダ、魔法使い3人の動きは?」

「同じ位置、いえ近づいてきている。魔力が膨らんでいるから、おそらく攻撃魔法を使う気だわ」


「よし、魔法使いが逃げなかったのはラッキーだったわ」


魔法使いは最低でも1人、捕獲したい。

一匹に付き2人の「食事」をしても満足しない爬虫類たち。その30メートル先に、10階フロアボスのちぎれた肉を投げた。


「爬虫類部隊」は一目散に肉に向かった。


どんどん肉を出して投げると、「爬虫類部隊」は進軍していった。


洞窟型ダンジョン出口から50メートル地点に男が3人がいる。

おそらくそいつらがゲルダが言う「3人の魔法使い」だ。


向こうは私を把握している。レベル70なら50メートルくらいの距離で、魔法を打ち込むと予測できる。


そうはさせない。


キメラ肉を小出しにして、前へ前へと投げると、9匹の爬虫類部隊は魔法使い3人に気づいた。


3人は慌てている。

「女の前にトカゲが出てきた。2匹がこっちを見た!向かって来ている」

「でかい。魔法を撃たんと倒せんぞ」

「まずい、女がトガゲや鰐の後ろにいる。俺がトカゲを撃つから2人とも女に備えろ!」


魔法を警戒しながら見ていると、高威力のアイスランスが発射されたが、当たった2匹のトカゲはのけぞっただけ。

なんだかんだいっても、トカゲたちは特級ダンジョンの魔物。防御力は普通ではない。


魔法使い2人が、トカゲに噛みつかれた。


「あ、思ったより展開が早い。1人は回収しなきゃ」


とっぷん。


ダッシュしながら2メートル「沼」を出し、3人目の魔法使いが食われる寸前にトカゲと一緒に回収した。


召喚獣も回収し、ゲルダのとこに戻って魔法使いを沼の底から出して尋問すると、子爵家三男ジャグロの手の者だった。


「あなた見たことあるわ。近隣の村人を焼いたって自慢してたよね」


ナイフを抜いて暗い目に変わったゲルダを見て、頬が熱くなっていった。


「沼」スキルの副作用、私自身の性癖、どっちのせいでこんなにゾクゾクしてるんだそうか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る