第52話 ゲルダと50日間
とらえた魔法使いはゲルダの家族の仇、マツクロ子爵の三男ジャグロの手下だった。
ぽちょん。沼に沈めながらゲルダがナイフで刺した。経験値になってもらう。
「サーシャ、外にも追っ手がいるかな? これからどうする?」
「うん、またダンジョンに潜ろう」
「え、ダンジョンから出ないの?」
「物資は2人で3年暮らせるくらい持ってる。魔法のコンロや燃料の魔石も山ほどあるから、料理もできる。10階ごとにあるセーフティゾーンなら問題なく休める。それに3階層ごとに1つくらい何もいない小部屋があったから、ダンジョンに2ヶ月くらいこもりましょう」
「高レベル者は発想が違うね。ここ推奨レベル110から180だよ」
「このダンジョンの魔物は防御力が高いから、神器持ちが追ってきても魔物にてこずると思う。追跡は困難。むしろ私達に取っては、安全な場所よ」
「そうだね。サーシャが「沼」で、ここの魔物を沈めてるのがおかしいんだよ。簡単なのかと勘違いした。試しにミスリルソードでウサギのキメラを切ったけど、毛がパラパラって落ちただけだったもんね」
「下層に行っても「沼」は上層と同じように魔物を倒せる。問題は大きさだけ。だから今日は10階のセーフティゾーンで休んで、強行軍だけど明日中に20階に行こう。それでお願い」
「復讐する力をサーシャがくれるんだもん。こっちこそお願いします」
「しばらく2人きりだね」
ごめんゲルダ。私には人との距離感が分からない。
あなたの心の中は死んだ家族の復讐で一杯みたいだ。
私が入る隙間はない。
だけど、私は一緒にいたい。明るい瞳も、深い暗さをたたえた目の奥も、もっと見ていたい。
「沼」スキルの副作用で惹かれ始めたのか、本来の私にマゾヒストな変態性があったのか分からない。
ただ、もう自分が死ぬ選択肢を考えてほしくない。
◆◆
1日後。
「もう笑うしかないわ、サーシャ。くっくっ」
「ゲルダが足が速くて良かったよ。へへへ」
「レベル100以下の魔物がいないとこで、72匹の魔物を倒してる。本当に私も5倍の経験値が入ってるって信じられない」
「けど実感あるでしょ」
「うん、探知とS級武器を使うときの水魔法が恐ろしいことになってる」
「最下層まで行けば、ゲルダはレベルが75から80は行くと思う」
「うっは~」
20階、フロアボス部屋の前にいる。
11階から20階の魔物は、体がウサギのキメラ。
「サーシャ、15階の顔がゾウ、体かウサギの魔物は黙々と「沼」行きにしてたよね」
「言わないで、きしょかったのよ」
「いやあ、馬顔のウサギも大概だったよね」
「ウサギの体ってなにと組み合わせてもマッチしない・・」
「だからって、ボス部屋の前に佇んでても・・」
「ならゲルダが扉開けてよ」
「カバ顔のウサギとかいたらやだなあ・・。ヤケだ!」
ゴゴゴゴゴ。
「本当にいたよ。き、きしょい」
「アゴが地面に付いてる愛くるしい体に親父顔が・・」
20階のフロアボスは4メートルのカバウサギ。それを2メートルにした護衛8匹が横並びで、一斉に向かってきた。
ズリぴょん、ズリぴょん、ズリぴょん。
ズリズリぴょん、ズリズリぴょん、ズリズリぴょん。
「ひいいい!80センチ沼3個はつどー!」
「やああだぁぁ!「暴れ水神」出まくってええええ!」
「沼」スキルを得てから、一番取り乱したと思う。
ぽちょん、ぽちょん、ぽちょん。
出した沼を無茶苦茶に走らせて、捕らえたカバウサギをボスにぶつけまくった。
そこにゲルダが水属性の技を当てまくって、ボス戦終了。
とっぷん。
◆◆◆◆◆
50日後。もう私の秘密もほとんど話してある。
「私は復讐の鬼、復讐の鬼」
「何つぶやいてんのよ」
「いやあ、サーシャと一緒に強くなるの楽しいし、見た目がへんてこな魔物見て笑っちゃって、本来の目的を忘れそうで」
「ぷっ。そうだ、10階にいたカバウサギ捕まえてゲルダの召喚獣にしよう」
「げ、それだけは勘弁して」
もうダンジョンにこもって50日。79階の6メートルウマシカを沼に沈めている。
ぽちょん。とぷ。
「ぶるるるんっ!」
「攻撃させてもらうね。暴風水槍」
びゅるるるる、どすっ!
ぽちょん。
「ゲルダは推定レベル80ってとこかな。水のS級武器ナシでも、上級ダンジョンの単独討伐はやれそうね」
「うん、大感謝だよ」
あとは80階のダンジョンボスだけ。ゲルダ情報によると、カバの頭にウサミミ。鹿の胴とゾウの足、尻尾が牛のキメラだそうだ。
「大きさ10メートルだから、素材の確保は望めないね。いきなりボスの足と顔を固定するから、ゲルダが攻撃して」
「了解」
ゴゴゴゴゴ。
「やっぱりボスは、ウサシカゾウウシカバだ、いてっ」
「セットがウシウマシカコアラ、ウサリスヌーガゼルが各四匹だわ」
まあ、拘束、ゲルダ攻撃、沈めるの、ワンパターンな倒しかたでやっつけた。
ゲルダ口から血が出てるのは、舌を噛んだだけだ。
肝心なのはダンジョンクリアのご褒美宝箱から出るスキルオーブ。あらかじめ説明してあり、ゲルダに2個とも渡した。
「「水魔法極」、「身体強化極」、ありがたく使わせてもらうわ」
「うん。これでゲルダもレベル100クラスの相手に勝てると思う。ダンジョン出て情報集めて、子爵家殲滅だね」
「うん。サーシャ、そこまでよろしくね」
決戦後、ゲルダがどうするのか聞けなかった。だけど、一緒にいてくれないかと、勝手に期待してる。
彼女に目一杯の強化をした。
狙いがうまく行くことを祈っている。
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