第42話 生け贄探し

名残惜しいが、楽に経験値が稼げる爬虫類系の野良ダンジョンをあとにした。


気分転換に普通のご飯も食べたくなり、近くの街に足を向けることにした。

ついでに高級食材の甲羅1メートルのスッポーン2匹、頭から尻尾まで4メートルのワニ1匹を売る。


ぽちゃん。


生け捕りにしていた獲物を沼の底から出し、鉄製の蓋付き水槽に沈めること3時間。スッポーンとワニを順番に「溺死」させた。


ハルピインの近くで同じサイズのスッボーンとワニを捕まえた時、マリアさんのアドバイスで鉄製水槽を作った。


私はてっきりワニや亀は、水の中で息ができると思っていた。だけどワニも亀も体の構造は普通に陸上の生き物だそうだ。なんと1時間も息を止めていられるが、いつかは外に出て空気を吸わないと死ぬ。


本当は甲羅2メートルのスッボーンと体長15メートルのワニを売りたいが、どちらも沼の中で生きている。


「沼の底」から出しても、私には綺麗に止めを刺す方法がない。このサイズとなると、まともに戦うと危ない。


小沼で足を止めて槍でめった刺しでは、素材や食材がゴミになる。私は武器の扱い方が最低なのだ。


魔鉄の柵に入れて滝壺に沈めるとか考えたが、15メートルのワニが入る鉄柵を誰が作れるだろうか。



森の外縁部から50キロ東にあるハーノンの街に来た。人口は10万ほどいて景気もいいらしい。


森を抜ける時間も入れ、走って2時間。高レベルの恩恵はすごい。


獲物を換金して、沼様のために高い砂糖と卵を使ったスイーツを買溜めしないといけない。


冒険者ギルドに入ると、ハルピインのギルドよりツーランクくらい上の威圧感がある。外縁部にトロルが出るコメンの森を稼ぎ場にしている冒険者は、最低でもBランク。ガタイがいい男がほとんどだ。


受付に並んで30分、体の曲線を強調した白いボディースーツ装備を着た私は目立っていた。単独だし弱そうだし、エロいし、場違いなのだ。


「ここは初めてだけと、買い取りとレベル測定をお願い。レベルは非公開で」

「ようこそ、ハーノンギルトへ。Bランク冒険者のサーシャ様ですね。ではまず、鑑定玉に手を置いて下さい」


レベルを書いた紙を渡された。レベル129。トロル、大量の大亀にプラス経験値10倍効果は、100からは簡単に上がらないはずのレベルを一週間で10も上げてくれた。

沼様を説得して再び野良ダンジョンに入り、150を目指そう。


ただ、沼様の説得方法がない。


「買い取りは1メートルのスッポーン2匹と、5メートルのワニ1匹だけど、お願いできる?」


「はい、サーシャ様の左側にある運搬機にお出しください」


さすがは大物が持ち込まれることを前提としたギルトだ。運搬機もでかい。安心して獲物を出したが、ざわついた。


ざわざわざわ。

え?獲物が無傷た。溺死か?

ワニもスッポーンも素手で捕まえたように綺麗だ。

Bランクで1人なのにか。


無傷なら獲物の買取価格が高い。みんな方法を聞きたそうだけど、ここはプライドが高い上位ランク冒険者の集まり。


余計なことを言い出す奴がいないのがいい。はずなのだか・・


馬鹿がいた。それも絶対に、やっちゃいけない立場の人間。


「ランバー特級ダンジョンの攻略パーティー「殺戮天使」のサーシャさんですね」

「副ギルマス、いけません」


「何を言ってるんだタリス、特別な人が我がギルドを訪れてくれたから、挨拶にきたのだ」


どよどよどよ。


わざわざ2階から降りてきて、特級ダンジョン攻略という私の「非公開情報」を流してくれたのは、副ギルマスだ。


「しかし副ギルマス、サーシャ様はその情報を・・」

私は小声で受付嬢を制した。

「いいよ、お姉さん。そこの馬鹿は放っておいて買い取りの手続きをお願い」


私が信頼するハルピインのギルマス、ペルタ様は言った。ギルドには冒険者の秘密を守る義務がある。

自分が公開していない情報を流すギルド関係者がいたら、絶対に信用するなと。


「副ギルマス、この女が噂の3人組パーティーの1人かよ。強そうに見えないけど、本当なんだよな」


馬鹿な副ギルマスに続き、失礼な冒険者も現れた。パーティーを組んでるのか、5人セットだ。

装備は「拾った総ミスリル」を着ている私並みに高価そうだ。


雰囲気は副ギルマスも冒険者5人も「沼」を得る前から大嫌いだった貴族、大商人のご子息と似ている。


「強いのは仲間の2人。単独だと弱い私は2人の従者みたいなものよ」

「そうだよな。姉ちゃんから、魔力を感じないもんな」


弱そうな魔法使いが言いながら、ボディースーツで強調された大きな胸をしげしげと見ている。


「けど、特級ダンジョン攻略者なんて称号持ってるんだろ。誰かとセットなら有用なスキル持ってんじゃね」

「そうだ、俺らが面倒見てやろうか」


「本物の猛者」が集まるこのギルドで、素質が私並みの偽物。


いいところにいたじゃない。彼らは「沼様」への貢ぎ物にしてもいい。そうすれば、沼様も野良ダンジョンにもう一回くらい行かせてくれるかも。


「そうね。明日も森で採取したいのものがあるから、誰か雇おうと考えてたの。私が不得意な探知系スキルを持った人がいいわ。ここなら、誰を雇っても大丈夫そうね」


「よし、俺たちが立候補するよ」


ギルド内がざわついた。


「馬鹿ね。あなた方以外の人という意味よ。なんで、ゴブリン並みに弱い5人組を雇うのよ。他の人と話をするのに邪魔だから、そこの頭が悪い副ギルマスと一緒に失せなさい」


あちこちから苦笑がもれているし、受付嬢も笑いをこらえている。


「胸とお尻ばかり見られて気持ち悪いし、明日は1人で森に行こうっと」


副ギルマスと冒険者5人は、すごい目で見ている。最初から悪意を持って近付いてきたから、沼様もビンビンに反応している。


「仕込み」は終わった。


私は、駄目押しとばかりにフェロモンヒップをプリプリさせながら、ギルドを出た。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る