第34話 決着
「バーニンクエッジ」
「くうっ、あついっ」
追跡者のリーダーに「沼」の射程距離が短いことを見抜かれた。
戦闘が始まって10分、風魔法に炎魔法を乗せた遠距離攻撃でじわじわと焼かれている。
近づこうが離れようが、きっちり20メートルの距離を取られ、私からの攻撃は届いてない。
大きく距離を取ろうとすると、射程距離が長いウインドエッジを飛ばして足止めされる。
「弟のことを吐かせたかったが、下手に近付く方がヤバそうだな」
「くそっ、泥団子!」
「よっと。泥の塊だけど、これもスキルの可能性が高いな。お前を早く倒して、お前が逃がした姉ちゃん2人を追わないとな」
「2人になにするつもり」
「決まってるだろ。巨乳美人だって聞いてるぜ。俺が楽しんだあと、ブライトの変態貴族に売ってやる。手下をやられた損失を金で埋めねえとな」
「追わせない。絶対にここで殺してやる」
「殺されるのはお前だろ。焼いてやるよ。おらっ」
「79センチ泥団子、ミスリル盾と合体。くうううう、これでも熱波が来る!」
リーダーは恐らくレベル120を越えているだろうし、技の練度も高い。20メートルも離れてるのに風と熱をまとった剣圧が凄まじい。
小沼付きの白銀騎士人形もガードのため私の前に移動しているが、衝撃のせいで、すでに土台とブーツを残すのみだ。それは、そのまま私の前に残してある。
この男にメロンとカリナのことを知られてしまった。
避難のため2人を「沼」に沈めている。
沼の中に漂う生きた人間と死体も見たはず。
その上、異次元に閉じ込められた恐怖と不快感も味わっているだろう。
実際に、沼に閉じ込めた盗賊のうち何人か発狂している。
メロン達にパーティー解散を言い出される可能性が大きいと思う。
だけど殺戮天使が解散しても、この男が私達を赤の他人と思ってくれるはずはない。
リーダーはメロンとカリナを追って、手下を失った腹いせをするだろう。
それだけは避けないとならない。意地でも相手を仕留めようと決めたのは、私も同じなのだ。
◆
「しぶといな。ほれっ」
「ぐうううう」
「ミスリルの盾に何か付与してるのか、かなり頑丈だな」
ミスリルの盾に泥団子を付け、不思議空間で防護している。衝撃は緩和されるが、奴が飛ばす熱波は盾の近くで渦巻いたままで、私の手足を焼きに来る。
「ちくしょ。またポーション。もう腹たぷたぷだ。行けっ沼」
当然、10メートルで止まった。
15分もたつと、リーダーが「沼」の射程距離が予想の15メートルより短いことに気づいたようだ。
傷を何度でもポーションで直す私に、やきもきし始めた。炎を作るMPも無尽蔵ではない。
よりダメージを負わせるためリーダーは12メートルまで近付いてきた。
そして剣に炎をまとわせ、フレイムショットの準備をした。
構えは右手で剣を持ち、本人から見て左から右に横に薙ぐ構えだ。
この瞬間を待ってた。
「泥団子解除、そして再構築80センチ泥団子発動」
ミスリル盾を右手で持ち、防御体勢をとった。そして「左手に泥団子」の構えを取り、地上30センチに浮いている白銀騎士人形の小沼付き土台に乗った。
「小沼全開120キロ!」
静止状態からノータイムの120キロ。普通なら乗っている者は振り落とされる。
そうならないよう、極端な前傾姿勢で踏ん張る。
後頭部を打ちながら、何百回も練習した技だ。
リーダーは少し驚いた。止まったミスリルの大盾が、一瞬で時速120キロに加速して自分に向かってきたんだ。だけど私が盾の裏にいることは気配で分かっているだろう。
「盾ごと切ってやらあ。フレイムショット!」
ザンッ、ゴオオオオオ!
あらかじめ手前で高速で走る土台から跳んで、リーダーが剣を降りきった側に向かった。
私のスピードが鈍ったお陰で、熱波を右腕に食らっても剣の直撃は避けられた。
「そっちに来たのは失敗だぜ!」
奴は一流の剣士。
離れたところから技を繰り出すときも、剣を振ったあと手首を返し、返す刀で「二の太刀」の準備をしていた。
私は火炎を何度も食らいながら、「二の太刀」の軌道を予測していた。
リーダーの剣速は私が対応できるレベルを超えている。
だから「障害物」に当たって、スピードが鈍る瞬間を狙うしかない。
「障害物」? もちろん私の左脇腹だ。心もとないがミスリル装備で固めてある。
リーダーに迷わず剣を振ってもらうため、泥団子以外に余計な物は出していない。
すでに泥団子は準備している。リーダーの剣を持つ右手が「障害物」を切る瞬間に、そこにあると予測した位置に左手の泥団子をたたきつきた。
ザグッ!ぺちょっ、ぽちょん。
「ごぷっ・・」
ミスリルの装備を簡単に越えて、リーダーの剣は私の腹に届いた。
だけどリーダーが剣を振り切り私の腹を裂く寸前、刹那の時間で泥団子から「沼」が展開された。
「な、なんで穴がここにある。うで、腕が、あががが!」
地面に「沼」を展開し、足を取られた状態ならリーダーの反撃があっただろう。
だけど、上から下にたたきつけられた泥団子から展開した「沼」は入り口が下を向いている。
ずるっ、ずるっ。
「くそ!どうなってんた」
リーダーの腕は腰より少し高い位置に展開した沼の中へ、下から上に沈んでいる。
リーダーは右腕を飲まれる力に抵抗できず、膝をつかされたあと、柔術の技を食らったように仰向けに転がされてしまった。
ずぷっ、ずぷっ。
「穴女、絶対に脱出してお前もあいつらも殺してやる。うぷっ」
「沼」は上位神のスキルだ。一度つかまったら、人間なんか抜け出せない。
どっぷんっ。
奴は完全に沼に吸い込まれた。私は「沼」スキルが絡むと有能なのだ。
勝った。
勝ったが・・
「ミスリル・・でも・・無理だったか」
左脇腹の傷から血が流れ出て、どんどん血溜まりが広がっている。
「・・沼のそ・・こ。メロンとカリ・・ナ」
ぴちょん。
どさっ、どさっ。
霞む目で、メロンとカリナの無事な姿を確認した。
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