第33話 開戦
見せたくなかった、本当の「沼」をメロンとカリナの足元に出した。
「え、サーシャのスキル?なんでここに」
「うそ、沈む。足も手も引き抜けない。引き込まれていく」
「サ、サーシャ助けて下さい」
「うそ、いやだ。どうしたのサーシャ」
「やめて!」
「嫌あ!」
とっぷん。
これで、何も気にせず戦える。
「2・5メートル「沼」は展開したまま。プラス80センチ泥団子発動」
ぺちょっ。右手に泥団子を持った。
外からリーダーの声が聞こえた。
「なんだ、お姉ちゃんの気配が2つ消えたぞ」
「隠蔽スキルか?」
「1人残ってるから、囮になって2人が包囲を抜ける作戦か。まずあいつを捕まえろ!」
私はミスリルの軽装に手甲を付け、下に出した「沼」の中央に乗った。
建物に侵入したのは7人。
「女が1人か」
6人が今いる廃墟の2階から降りてきたから、沼の底から水を放出した。
「水、どっから? うおっ」
今の沼で出せるスピードは時速120キロ。6人の足を一気に捕らえ、部屋の壁に当てまくった。
ドコッ、ドコッ、ドコッ。
「がっ、ぎっ、ががっ」
「どうした!」
遅れて顔を出した奴に泥団子に投げたが反応が速い。持っていたナイフで泥団子を切り付けた。
ぽちょん。沼が空中で展開した。
「うわ、なんだこりゃ、腕が引きずり込まれる」
彼がやったことは普通なら正解だけど、投げたのは非常識なスキルた。
とぷん、とぷん、とぷん。
残りはリーダーと手下13人。悲鳴と破壊音が出たから、女の武器を使って油断させる作戦もとれない。
「おらっ、びびってねえで次行け、5人だ」
リーダーの判断ミスにより、私が得意な室内に5人の獲物が飛び込んできた。前と同じ手順で「沼」に沈めた。
「やられたみてえだな。おいお前ら、今度はあの家を破壊しろ」
迂闊に動くより室内で決着をつけたかったが、外に引きずり出されそうだ。
逃げる手もあるが難しいし、ここで倒せと沼様の警告めいた信号も感じる。
「破壊される建物にこもっていられない。撃って出るしかない」
小細工は幾つか用意してある。
中に木の人形を入れた兜あり台座付きの「白銀騎士人形」を60センチ小沼に立たせた。
廃屋の出口から地面まで30センチくらい段差があるが、宙に浮く白銀騎士人形を勢い良く飛び出させた。
私は遅れて出て、地面に2メートル沼を展開。間違いなく遠距離攻撃を持っているリーダーとの間に白銀騎士人形を置いて、警戒しながら沼を動かした。
ダツタンのルークにもらったアドバイス通り、自分が動くことで「沼」の動きに多様性が出た。
とぷん。1人目を簡単に捕まえた。
「うわ、なんだこれは、出られない。沈む」
それを見たリーダーが怒声をあげた。
「やっぱりお前か。その黒い穴を使って、お前が俺の弟をどうにかしたんだな。絶対に捕まえて弟がどうなったか吐かせてやる!」
手下の動きがレベル80近い私より速い。だけど私の動きに「沼」のスペックが加われば、捕獲だけなら難しくない。
ぬぽっ、ずぽっ、ぬぽっ。
「お前らだらしねえぞ!」
手下は最後の1人が素早くて捕まらないが、リーダーと合わせて2人まで敵を減らした。
「みんな弱いね、2人一緒に来る?」
「いや俺は最後でいいぞ、穴女」
勝ち目があるなら接近戦。なのにリーダーには距離を取られている。
最後の手下は175センチの剣使い。
「沼の底から水、泥団子付き30センチミスリル玉だな」
ばしゃっ。ぺちょっ。
腰の高さにセットしたミスリル玉付き泥団子を最大の120キロで手下に向かわせた。
奴は眉毛がピクリとしながらも、右に跳んで回避のしたが本命は下。着地地点に沼を移動させて、手下をキャッチした。
そのとき背筋がぞわりとした。
「嘘だろリーダー!」
「バーニングエッジ」
手下の声に反応して跳べたが、視界の隅に手下が斬撃と熱波のカーテンに巻き込まれるのが見えた。
ガードの白銀騎士もボロボロだ。
リーダーの技の射程距離は推定80メートル以上。もし逃げていたら背中に食らっていた。避けたのに、熱波の余波を浴びて足がヒリヒリしている。
戦うしかない。
「あの男、思ってた以上の手練れだ。手下を私と戦わせたのは判断ミスと思ったけど違った。手下はこっちの能力を把握するための捨て石なんだ・・」
頭の片隅で考えた。沼の中にいるメロンとカリナは、ぐちゃぐちゃになったり、焼け焦げた手下を見ただろうなと思った。
いきなり怖い沼の世界に沈めたから、私のことが信じられなくなってるだろう。
私が気持ち悪くなってるだろう。
「穴女すげえな。けど色々と見せすぎちまった。高速で空を飛ぶ玉、素早く動いて獲物を捕らえ飲み込む穴。強烈だ。けどな致命的な弱点がある」
「だからなに?」
「お前の体の運び方が変だ。接近戦の熟練度が高いと言えないレベルなのに、ターゲットから離れないことを意識している。スキルは強力だが射程距離はそこまでなさそうだな。長く見積もって15メートルまでだな」
やっぱり冷静に見ていた。
短時間の戦闘で「沼」の弱点を見抜かれた。手練れの上に用心深い。
だけどメロンのカリナを地上に送り届けるため、何をしてでも勝機を見いださなければならない。
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