第32話 さよなら私の勇者達
私が前に裸で釣って殺したブライト王国の高位冒険者は、名前はゲーリーといった。
なぜ今さら、そんな情報を思い出したかといえば、そいつ絡みでピンチに陥っているからだ。
◆
遺跡型のランバー特級ダンジョンに入って2日目。私、メロン、カリナの技はここでも有効で3階まですいすいと進んだ。
このあたりはピンクガーゴイル、シルバーゴーレムから良質の金属が取れるため、Aランク冒険者の稼ぎ場になっている。
囲まれたのは、2体目のシルバーゴーレムを倒し、通りから離れた石作りの廃墟で休んでいたときだ。
大きな庭付き2階建て一軒家の1階部分にいた。
「ここは静かだけど、フロアには人が多いよね」
「広いし、ミスリル鉱石が取れますからね」
「まさか上位ランクの冒険者に混じってダンジョンに潜る日が来ると思わなかったな」
と、話した瞬間、別方向から来た3~4人くらいのパーティー6つが、申し合わせていたかのように、等間隔に散開したのが分かった。
「サーシャ、建物が人に囲まれた!特に強い気配がひとつある」
「みんな人間です。全部で21人。私とメロンよりレベルが高そうです」
「まずい、廃墟の壁で死角を作ろう」
似た雰囲気を感じたことがある。神器持ちの山田竜都の前に、騙して殺したブライト裏ギルドの冒険者だ。
緊迫した空気の中、190センチの長剣を持った男が口火を切った。
「おい、サーシャってのが、そん中にいるだろ。お前に聞きたいことがある」
「いきなり何よ」
まずい。コイツはレベル100越えの、生粋の戦闘職だ。仲間も格は落ちるがメロンとカリナより強そうだ。
「俺の弟のゲーリーがな、ブライト王国から逃げた賞金首を狩りに行ってから、消息不明なんだよ」
「私が知るわけないじゃない」
手下らしき奴らが、どんどん間を詰めている。建物にいるせいで高低差があり、外に向かって「沼」が使いづらい。
「やんちゃだか大事な弟でな、ハルピインのギルドに顔を出したとこまでは確実なんだよ」
「前にも同じような話を聞かれたことがあるけど、裏ギルドで追ってるサーシャは容姿もスキルも私とは違うそうじゃない」
「うん、俺もそう思ったんだけどな、一応はお前のことを調べてみたよ。そんで、そこの領主の次男坊に面白い話を聞いたよ」
「・・」
甘かった。奴は殺すべきだった。
「ハルピインの近くにはびこっていたゴクツ盗賊団が壊滅したが、やったのは間違いなくお前だって言ってたぞ。スキルも食らってみたらヤバかったとな」
「だから私は関係ない!」
「あ? 関係あるかないか、俺たちが決めるんだよ。お友達2人も、裸の個別面談で体の隅々まで調べさせてもらう。あんたが何か情報をくれるなら、楽しませてもらったあと解放してやってもいいぜ」
思わずメロンとカリナの方を見た。
だけど、逆に見返された。
「自分だけ犠牲になろうとか考えてない、サーシャ」
「考えが甘いです。私もメロンも覚悟もなしにサーシャと一緒に来ている訳がないじゃないですか」
「ダメだよ。2人とも」
まずい、何人か2階に飛び上がった。全方位からくる気だ。
「手下も強そうだけど、レベル5でシルバーベアと対峙したときよりましです」
「ダンジョン2階に上がる階段側にはリーダーがいるから、反対側に迂回して3人で逃げよう」
「サーシャがスキル展開して、私達が左右で援護しながら行きましょう」
「もしはぐれても、サーシャは止まっちゃダメだよ」
「そう、振り向かないで走って。必ず追い付きますから」
「ハルピインに帰ったら、また高級喫茶店に行こう。きっと楽しいよ」
2人とも笑っているけど、笑顔がひきつっている。
小沼と泥団子をフルに動かせば、私一人なら逃げ切れると思っているんだろう。
私のスキルは周りに仲間がいない方が強そうだから。
そう確信したから、メロンとカリナは勝てる見込みもないのに、20人の手練れを相手に戦いを挑もうとしている。
自分たちが人質に取られて私の足を止めるくらいなら死ぬ気だ。
本当の力を出し惜しみしたまま、2人を守ろうとか考えていた私は馬鹿のままだ。
2人は今も私を守ろうとしてくれる勇者だ。
もう、何て言っていいか分からない。
このあと別れを迎えることになっても、必ず2人を地上に送り届ける。
「2・5メートル「沼」展開」
ぽちょんっ。
私は勇者メロン、勇者カリナの足元に何でも飲み込む凶悪な「沼」を出した。
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