第35話 沼の中
メロン・・
カリナ・・
無事に沼の底から出てきた。
化け物を見る目で見られることが怖くて顔が見られないし、もう目も霞んできた。
私の役目は終わった。もう敵はいないと思うけど、早くここから離れて欲しい・・
「メロ・・カ・・リナ、早く、逃げ・・」
◆◆◆メロン◆◆◆
特級ダンジョンで強敵に出会った。サーシャ絡みで因縁がありそうだった。
S級武器があるが勝算は低い。
それでもカリナと撃って出ようとしたとき、サーシャが知らないスキルを発動させた。
とぷんっ。沼スキルに沈められた。
沈むときから思った。捕食者に見られているようで怖くて仕方ない。
「濁流?液体の中にいるようなのに息ができる。カリナ、なんだかここは怖い。カリナ?」
返事をしてくれない。けどカリナの口はパクパクしている。
「ねえカリナ、返事をして。サーシャは何でこんなことをしたの?」
何度か話しかけ、カリナの近くに行こうとして体の動きが制限されていることに気づいた。
暗い淀みに浮いているが、カリナの元にも行けない。
臨戦態勢で武器を持ったままだが、手から離れないし、指輪に収納もできない。途方に暮れていると、6人の男が淀みに現れた。みんな瀕死だ。そしてまた1人。この男は元気だけど、戸惑って私に向かって口をパクパクしている。
どんどん男が現れた。最後が胸から上が焼け焦げた首がない死体と、そのセットと思われる焼け焦げた頭部。
数は全部で20。あの大男の手下の数と同じた。
確信した。
「サーシャは見せたくないものを見せてまで、私達のために戦っている」
カリナの方を見ると、自分の口を指差して何度も訴えていた。
「信じよう」
カリナに聞こえていないだろうが、同じ口の形を作った。
すると声がした。
『おめえら、それは嘘じゃねえよな。サーシャの弱点どもよ』
「誰?どこにいるの?」
『うるせえ聞け。奴は初めてお前らの世界にできたアタイの窓口だ。眷属でもなく、偶然でアタイの力を使えるようになった凡人だ』
「声」が私達に話している間に、見覚えがある190センチの大男が淀みに現れた。
『残念、サーシャはこのまんまじゃ死ぬな。けど安心しろ。おめえらだけは「沼」から出して死ぬ気だぞ。良かったな』
「サーシャが死ぬってどういうこと?」
『そいつにやられたに決まってるだろうが。ま、逃げるのは無理だったけどな。おめえらへの禍根を取り除くために、最後にここに送られてきた男と相討ちだ』
サーシャ・・
『サーシャが死ぬとつまんねえから、何とかしろ。それと今後のために、召喚者の武器使ってお前ら専用の武器作った。そんで体に刻みんだ』
あ、足元から引っ張られる。今度は吸われるというより出ていく感じ。
『190センチの男から、いい薬を拝借した。サーシャに飲ませろ。時間はねえぞ』
最後まで聞く前に、元の場所に戻った。
ちゅぽん。
降りると目の前にサーシャが横たわっていた。
体のあちこちが焼け焦げ、お腹の下に血溜まりができている。
「メロ・・カ・・リナ、早く、逃げ・・」
確かに時間がない。淀みを脱出したとき右手に持たされていたポーションのようなものを急いで飲ませた。
カリナは収納指輪から出した特級ポーションをサーシャの腹と焼けた右腕にかけ、回復魔法を全力で唱えた。
淀みの中で渡された薬は特級ポーション以上の効果を発揮して、サーシャのお腹の傷を塞ぎ、炭のようだった右手を元に戻した。
けれど、サーシャは目を覚まさない。
「血を流しすぎています。造血ポーションも飲ませましたが、血を失いすぎです」
「こんなになるまで私達のために戦ってくれたのね」
「自分が死にかけなのに、最後まで私達に逃げろって・・」
カリナがサーシャをお姫様だっこした。レベル50を越えた私達なら、このまま走って帰れる。
「交代でサーシャを抱えて、魔獣が出たら対処しましょう」
「サーシャの秘密、すごかった。あれだけのスキルだから何かあると思っていたけど」
「あの「沼」は違う世界につながる出入口だったんです。きっと」
「それもある意味、地獄のような世界。他人に言えないよね」
「サーシャが戦って殺しかけた人間が見えました。あれを私達に見せたくなかったんでしょう」
「沼の淀みに入ったとき、背筋の震えが止まらなかった。だけど、不思議な声が聞こえてからは耐えられたわ」
「私もです。あれが「沼」の意思なのでしょう。私達がサーシャを嫌ったりしないように話してくれたのでしょう」
「それに何かくれたわ。左手に虎の形をした刻印が刻まれている」
「私は獅子です」
「サーシャ、「沼」に板を置いて滑らせれば100キロ以上で移動できる。リーダーが相手でも1対1なら逃げられたんじゃないかって思う。なのに、逃げなかったんだ・・」
「沼に沈んだ190センチの男は無傷にも見えました。沼の力を使って勝てたけど、サーシャ自身は傷を負わせることができてない。それほどの相手だったんです」
「初めての仲間っていったって、私達のためにそこまでする必要なんかないのに」
「ここまでやられて、嫌いになったりする訳がないです。スキルのことで世界中が敵になっても、私達だけは裏切りません。だからサーシャ、必ず目を覚ましてください」
淀みの中の声がくれた武器は強力だった。お陰で、特級ダンジョン3階から簡単に脱出できた。
ハルピインの街に帰り、療養所にサーシャを運び込んだ。
そして3日後、彼女は目を覚ました。
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