第13話 過保護な殺戮者
ハルピインに着いた次の日、さっそくキンヌダンジョンに来た。
洞窟型で動物系魔物のダンジョン。全30階。ギルド推奨レベルは25~48。
初めてパーティーを組んだのだ。メロンとカリナを説得しまくった。
「Eランクの私達が入って大丈夫ですかね」
「問題ないよ。2人を守りながら進むことを考えて、私のスキルが使いやすいとこ選んだんだ。離れないでね」
「それに装備までお借りして。フード付き全身タイツ、鎖かたびら、小手、ブーツ、ナイフ、それが全部ミスリル製なんて貴重なものを」
「いやあ、ブライト王国から逃げるとき、貴族の護身用装備を拾ったんだよ。まだあるから、ずっと使っていいよ」
「時間停止機能付きで大容量の収納指輪と防御結界腕輪まで使わせてもらって・・。私1人が借りてるもの全部で3000万ゴールドは優に越えると思います」
「へ~え。収納指輪なら容量の大小合わせて100以上は拾ってる。強引に誘ったお詫びに、渡したもの全部あげるよ」
「ダメですよ」
「ん、それよかなんか来たよ。スキル発動」
ぽちょん。ぽちょん。ぽちょん。
70センチ小沼発動。警戒用に後方に1つ。獲物捕獲用に前方に2つだ。
「ミドルホーンラビットです」
4匹いたけど、簡単に小沼で拘束した。狭い洞窟の通路で敵の逃げ場はないのだ。
「収納指輪から2・5メートル槍を出して戦って」
「戦ってって・・兎がほとんど動けませんよ」
「なんかお貴族様のパワーレベリングをやらしてもらってるみたい」
「私のせいで、2人とも高レベルと思われてるし、しっかり責任はとるからね。ファイト」
ザクザクザク。
「わっ、収納指輪が兎を吸い込んだ」
「もう、これだけで4万ゴールド。今までの私の10日分の稼ぎと同等です」
ザク。
「へえ~2人にはお兄さんがいて、家はその人達が継いでるんだ」
「どちらの家も兄夫婦が耕す農地はありますが、そこまで余裕がないので2人とも家を出ました」
「大変なんだね、どこも。ほい、スキルでウルフ捕獲。戦闘開始」
サクサクサクサク。
「サーシャさんは故郷は近いのですか」
「魔国の近くだよ。さらわれてブライトにいたけどね」
「あ、ごめんなさい」
「え、いいよ。さらわれる前は孤児で貧乏だった。ご飯が食べられるから、今の方が断然いい。それに敬語もいらないよ」
「けど・・」
「育ててくれたシスターが誕生日を設定してくれたから18歳にしてるけど、本当は17とか19かも知れないんだ」
「だったら、おいおい言葉も直していきます」
ザグザク、グサグサ。
「今日の目安は5階だね。確かボア系の宝庫とか」
「突進力がすごいですよ」
「私のスキル見たでしょ。「小沼」は直線的なやつと相性がいいから、むしろ楽勝。立体軌道の猿系、鳥系対策が今後の課題だよ」
「いましたミドルボアとビッグボアで6匹もいます」
「2人は動いちゃダメよ。ほいほいほいほい」
ぽちょん。ぽちょん。ぽちょん。ぽちょん。
メロンとカリナの前に警戒用1つ。ボアの前に3つ横並びだ。
幅3メートルの通路を突進してくる先頭の猪が、小沼に足を固定され急ブレーキ。
いきなりストップした猪に後ろの2匹が激突した。先頭の奴は前足が折れ、後ろのは派手に転倒した。
残る2つの小沼に1匹ずつつかまった。
前がつかえて動けないミドルボアは、私が走って行って止めを刺した。
小沼を再び操作して、五匹の猪を完全に拘束した。
「さあ、戦闘開始よ」
「ぷっ、サーシャってば」
「ここまでサーシャにお膳立てしてもらって、戦闘って。ウケを狙って言ってますよね。ぷっ、ぷぷ」
メロンは砕けた口調になった。カリナが敬語なのは、普段からの癖だそうだ。名前は呼び捨てだから、私としては嬉しい限りだ。
「メロンとカリナで倒した数が均等になったよね。そろそろ帰ろうか」
「私とカリナがビッグボアだけでも3体とか、ありえない」
「ギルドに帰って獲物を出したら、疑われませんかね」
「大丈夫。そのために勇者パーティーの従者に私が入れてもらったんだから」
「勇者はサーシャだよ」
「パーティーに入れてもらったのも私達の方ですよ」
◆
3階まで戻ったとき10個くらいの気配を察知した。これまでと違い「沼」がビンビン反応している。やっと分かったが、沼様は悪意が大好きなのだ。
エサの役目を果たすため、痩せてみすぼらしかった私が銀髪美女になった。というか変身させられた。
しかも体は肉感的になり、胸部はDカップまで成長している。
1人で来てればマックス3メートル「沼」を出して「盗賊 仮」を沈めるの一択だけど、メロン達を連れてるから工夫しないといけない。
2人には悪いけど、わざと進んで相手の探知範囲に入った。
「いけない、盗賊よ。2人とも後退して!」
開けた場所から袋小路の通路に誘い込んだ。
「へへっ、残念だったな。俺らからしたら獲物が綺麗どころの姉ちゃん3人でラッキーなんだけどな」
「盗賊なのね」
「意外に冷静だな。ゴグツ盗賊団だ。アジトに連れて帰って可愛がってやるよ」
数えてみたら、見張り1人を入れて9人。11人と読んだ私の感知はポンコツだ。「沼」スキルが絡まないときの、自分の基本スペックの低さが悲しくなる。
「メロンとカリナは奥で大盾を出して。スキル発動」
「分かった。ごめんね」
「役立たずですみません」
ぽちょん。ぽちょん。ぽちょん。
1つはメロン達のガード。2つをいきなり動かして、5人の足を捕獲で3人は転倒させた。
肝心なのはここからだ。誰も逃がさないために、見張りに向かって特注の鉄球を投げた。
貧乏人の投擲武器「石」で鍛えたコントロール力を生かした。油断してた見張りの腹に鉄球がめり込んだ。
残りは小沼で捕獲して、元気な奴は撲り倒している。
「お願い、外の見張りは無力化してるから、2人で縛り上げてきて」
「任せて!」
「よし、少し時間が稼げたね。「沼」2メートル」
ぼっちょ~ん。
「お、お前らなにもんだ・・」
「尋問タイムはあとよ」
手早く8人を「沼」に貢いだ。
「サーシャ、見張りはもう事切れた・・」
「そう。こっちも万が一が怖いから、止めを刺して収納指輪に入れたよ」
「1人でやらせてすみません」
「いいよ。それよか、お腹空いたから帰ろうか」
「え、ええ」
「盗賊の持ち物は後日整理して、きちんと三等分するから、ギルドには黙ってて」
「私達はなしでも構いませんし、従うだけです」
「ブライト王国絡みじゃないか、少し調べてギルマスに直接報告するわ」
「ああ、そういうことですね」
記念すべき初ダンジョン、初パーティー活動は大漁だった。
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