第12話 必死で下手な演技

ギルド併設の食堂に来た。


「メロン、カリナ、好きなものを食べて。私のおごり」

「いえいえ、私達がシルバーベアから助けてもらったお礼なんですから、2人で出します」


「いや、ダンジョンを潜るために余分に料理を作ってもらうから、ついでに食べなさい」


メロン達にヤバい人間だとバレて、きっと怖い人認定されてる。悲しい気分だ。せめて今、一緒にご飯を食べて別れの前のひとときを楽しみたい。


メニューの中から20品目くらい、テイクアウト用に作ってもらい、幾つか開いて2人に勧めた。


「食べて。そんでごめん、さっきは私が後先考えず動いたから、2人も悪目立ちさせてしまった」

「ビックリしましたけど、私達のために怒ってくれたんですよね」

「・・え~と、なんというか・・」

「そうです。ブライト王国から逃げてきた凄腕の兵士の噂は聞いてますが、サーシャさんのことだったんですね」


「・・怖くないの」

「最初に助けてもらってますから」

「そうです。シルバーベアのことで文句も言われてないし、人を殺めたのもきっと、何か理由があるんですよね」


「メロン、カリナ・・」


こんなことを言われてしまうと、未練が生まれてしまう。


「ありがとう、その言葉で救われるよ。私はソロだから・・」

「話に割り込んでわりい。だけど、しばらくは3人で行動した方がいいぜ」


「あんたは?」

「初めまして。ここのギルマスをやってるペルタだ。職員から話を聞いたさ。うちの受付嬢がすまんかったな」


「あ、もう謝罪してもらったからいいよ。私はサーシャ」

「ダツタンのルークから連絡をもらってるさ。脳改造を受ける前にブライト王国を逃げだした人間兵器だってな。怒らせなきゃ普通だってルークの手紙にあったぜ」


「ルーク、なに書いたんだよ・・」

「まあ、まずシルバーベアの査定からだ。お~いマリア」


受付嬢が全開で駆けてきた。そんなに慌てんでも・・


「はいっ。シルバーベアの査定が終了しました。内臓の一部の素材が破損しておりましたが、毛皮、肝、心臓、そして爪と牙が綺麗でした。肉と魔石も含め全部お売りになるなら163万ゴールドになりますが、いかがなさいますか」


「2人ともギルドカード貸して。私に3万、2人に80万ずつ振り込んで」

「はいっ、承知しましたっ」


「え、は、80万?」

「ダメですサーシャさん、私達は端数の3万でさえもらう権利はありません」

「私、最初に討伐は手助けで、運搬手数料をもらうって言ったじゃない」


「命が助かって経験値も分けてもらって、その上に大金なんて」


「うん、おめぇら欲がねえな。ちょっと俺の部屋に来いや。そんでギルマスとして提案だ。臨時でいいから3人でパーティーを組め」


パ、パ、パーティー?

この男は、ぼっちの私の前に降りてきた神か。

迷わず、2人を引っ張ってギルマスの部屋に入った。


「ギ、ギルマス、パーティーの話とは?」

「おうっ、ルークに聞いてた以上に食いつくな」

「早く、早くっ」

「ギルドとしては、提案だけだぞ。前提はメロンとカリナを守るためだ」

「え?私達、誰にも相手にされてないですよ」


「おめえらどっちも美人だし、狙ってる奴はいるんだ。ただ弱いから、みんなパーティーに誘うのためらってたんだ」

「び、美人だなんて・・」

「弱い・・単刀直入ですね」


「だがな、職員から聞いたが、さっき2人だけでシルバーベアを動かしたそうだな」

「それはサーシャさんが・・」

「何か手助けしてくれたみたいで」

「分かってる。きっとサーシャが何かしたんだな。けどな、低級、中級レベルの冒険者は、お前らの力だって勘違いしてんぞ」


「ごめん、そこでも私が余計なことをしたんだね」

「そうだ、サーシャが悪い!」


ん?言い方はひどいけど、ギルマスがこっちにハンドサイン送ってるよ。


「!」

この人はやっぱり神だ。もうペルタ様と呼ぶしかない。


「サーシャのせいで、熊の巨体を動かしたメロンとカリナはレベル30越えと勘違いされている」

「うん、私のせいだ」

「これからサーシャのせいで、メロン達は勧誘合戦にあったり、ゴロツキ冒険者に絡まれたりするさ」

「みんな私のせいだね」

「だからギルドとしては、原因を作ったサーシャがメロン、カリナとパーティーを組んで防波堤になってくれと提案したい」


「分かった。私のせいだから、2人にパーティー申請をするよ」


私とギルマスの、これ以上ないくらいの棒読みな会話。メロンとカリナが呆気にとられている。


「そんでよ。メロンとカリナはサーシャの申請を受けるか?」


「受けたいのはやまやまですが、レベル5の私達では・・」

「問題ない!」


「実力Aランク以上のサーシャさんの足手まといに・・」

「足手まといなんかならない!」


「おし、決まりだ!受付に言っとくから、帰りにギルドカードを出してくれ」


「はいっ、ペルタ様」

「いきなり様付け?ところでルークの手紙ではサーシャは積極的に他人に関わらないって書いてあったぞ。なんで2人にこだわるんだ?」


「シルバーベアに出くわしたとき、勇者メロンと勇者カリナが私を逃がすために、熊に立ち向かったの。ジーンとしちゃった」


「Eランクの2人がおめぇのために、シルバーベアを相手にしたんか。確かに勇者だな」

「でしょ。だから恩は返さないと」



「カリナ、勇者ってなに? シルバーベアの討伐者、80万ゴールド。展開についていけない」


「シルバーベア・・あの猛獣に向かったときのこと思い出すと、またチビりそうです」

「私も・・すでにヤバい・・」



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