第10話 勇者があらわれた

ハルピインまであと一時間で着くとこまで来て、大物を感知した。


ダツタンを出発して8日目だ。



ここまでの旅路は平和だった。


2日前に煌びやかな馬車がオークの群れに襲われてたけど、スルーして予定通りに進んだ。

護衛の騎士が助けろとか上からモノを言ってたけど、関心はない。


高く売れるベアとボア系の魔物だけ倒したし、次のギルドで換金するのが楽しみだ。


って思ったところで、なにやら大きめの気配を察知した。

この感覚は、前にも経験がある。シルバーベアだ。Bランクパーティーでも危ないらしいが、私はすでに1匹倒している。

寄り道する時間はあるし、「沼」の餌食にしてやる。


森に50メートルくらい入ったとこで、異変に気付いた。熊がジグザグに走っている。何かを追跡している。


「きゃあああ!」

「カリナ、もっと走って!」


誰か追われていて森の出口方面、要するにこっちに来ている。

「ちっ、前にシルバーベアと戦ったときも、クズ冒険者に熊を押し付けられようとしたな・・」


ぽちょん。


テンションが下がり、とりあえず少し開けたとこに、60センチ小沼を用意した。


逃げてるのは、女の子の2人組だった。


「いやああ!」

「え?人がいる!まずいよ、メロン」


2人と目が合った。


「どうみても、こいつら弱いよね。熊を押し付けられて、とんずらされるのか・・えっ?」



なんと2人は、立ち止まって森の奥の方を向いた。


「逃げて下さい!」

「そうです。お姉さん早く!」


「へ?」


「カリナはお姉さんを連れて逃げて。私が足止めする」

「無理だよ!」

「大丈夫だよ。私は素早いから熊をうまくまいて、後から合流するから」

「ダメよメロン。お姉さん、熊連れてきてごめんなさい。逃げて!」


脳内にファンファーレが鳴り響いて、不思議な文字が流れ出した。


◇勇者メロンは熊に剣を向けた。

◇装備◇錆びた勇者の剣◇ツギハギの服◇穴が空いたサンダル◇


◇勇者カリナは熊に杖を構えた。

◇装備◇廃材製の勇者の杖◇古カーテンのマント◇着古した服◇擦りきれたサンダル



涙が出そうになった。

この2人、3ヶ月前の私だ。装備も満足にもたず、ギリギリでお金を稼ぎに来てる。

ゴブリン2匹に苦戦しそうな装備。なのに、なのに私をシルバーベアから逃がそうとしてる。


「うっ、うっ、カ、カリナは逃げ、にげて」

「も、も、もう無理。ぐ、ぐ、 ぐまが、そこに・・」


こけた頬が真っ青で、涙流しながら、足はガクガクしてる2人。だけど、3メートルの大熊と戦おうとしている。


この気高き2人を疑った私は何様なんだろう。

強力スキルをもらって、本当の実力もないくせに上から目線で彼女達を見下す馬鹿だ。


立場が逆なら熊を押し付けてた。



償う方法が思いつかない。



「助太刀させてもらうわ」

「え?え?え?な、な?」

「む、む、む、むり、り、り」


あえて言う。

「スキル発動!」


ぽちょん。ぽちょん。


相手を沈ませないけど強力な吸着力を誇る、79センチ小沼を2つ出した。

素早く熊の右足、左足に1個づつセットすると、いきなり沼を操作して、熊を縦横左右に振りまくった。前に油断して、風魔法を食らった反省だ。


ゴアッ!ゴキッ!ゴキッ!ゴキッ!ゴアッ!

ごああああぁぁ!


「すごい、お姉さん・・」

「なんなの、この技・・」


膝下くらいまで小沼の不思議引力で固定され、高速で振られまくった、シルバーベアもたまったもんじゃない。


タフだけど、両膝と腰がねじれてるし大ダメージを負っている。


一瞬だけ小沼を解き、熊がうつ伏せに倒れると、素早く79センチ小沼を四つ発動。


熊の両手と両足の下に移動させて、完全に地面に張り付けた。


「シルバーベアは、風魔法を使うから前に回っちゃダメよ。それからこれ貸すから、交代で使って」


特注4メートル槍で2人に何度か熊の左腹を刺させたあと、私が顎から突き込んで止めを刺した。


このくらい攻撃させておくと、止めを刺してない人にも討伐記録が残り、経験値が入るのだ。


「うえっ、うえっ、お姉さんごめんなさい。そしてありがとうございます」

「ぐ、ぐまに会っだどぎは、死んだと思いました。なんて感謝じでいいか分かりません。あうっ、あっ、うえっ」



「いえ、あなた方は私にシルバーベアを押し付けた訳じゃない。自分達で対処しようとしたから、私には何も問題は起きてないわ」


「え?それでいいんですか?」


「それより、あなたたちはシルバーベアを捕まえたわ。運搬手段はある?」

「いいえ・・」

「こんなに重いもの・・」


「じゃあ、私が運んであげるよ。少し運搬料もらうわね」

「お姉さんが1人で倒した獲物ですし、お姉さんが決めて下さい」

「なら、収納指輪で運ぶね。それから・・」


「は、はい」

「な、なんでしょうか」


「新品のパンツとズボンあげるから、2人とも着替えなさい」

「あ・・」

「はい・・」


盛大に漏らした2人の勇者を着替えさせて、一緒にハルピインの街に向かうことにした。



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