第9話 お別れの挨拶

龍の牙の残党と愉快な仲間達の根城に行って、二階建ての一軒家から中身をすべて収納指輪に回収した。


その足で冒険者ギルドに行き、ギルマスに別れの挨拶をすることにした。


「私がやったこととはいえ、2人も公開処刑したから居にくくなった。次の街に行くね」


「引き留めたいけど冒険者は自由だしね。そうだ、僕の紹介状を持って行ってよ」

「次の街でも普通に冒険者するだけだから、必要ないよ」

「じゃあさ、ブライト王国絡みとかで、僕の力が役に立ちそうなときに、そこのギルドに出してよ」


「そうか、そうだね。ブライト王国のことで困った人がいて、その人にあげてもいいなら持っておくよ」

「うん、それでいい。次はどっちに向かうんだい」


「まず、西のハルピインに行くのは決めた。そっから色々と動いて、最終的には南」

「故郷に帰るんだね」

「いえ、私達を懸命に育ててくれた孤児院のシスターはおばあちゃんで、恩返しする前に死んじゃった。もう未練はないよ」


「あ、さらに南の魔国に行きたいんだったよね」

「そうなんだ。レベルを上げながら旅して、強くなれたら魔王軍にでも入れてもらもうかな」


「ああ、それならもう一通、魔国中央のデビルギルドに紹介状を書いてあげるよ」

「魔国に知り合いいるの?」

「本当は魔王様に紹介状を書きたいけど、まだ君は未知数だからね」

「それでも助かる。ありがとうね」

「うん、ここに来た頃と違って、あっという間に健康的になったね」


「お陰さんで。ところで魔王様と知り合いなの?」

「うん。150年前に魔王様と旅したのが、僕の自慢なんだ」

「150年前・・。あっ、ギルマスって邪龍封印に成功した12英傑の一人なの?」

「はは、活躍したのは魔王様で、僕なんな12人中の序列12番目。絵本の中の弱虫ルークだよ」


「まじ? そんでもすごいよ。最後の決戦で怖いの我慢して、泣きながら精霊魔法を放ったんでしょ。絵本で何度も読んだよ」

「泣きながらどころか、おしっこチビってたよ。討伐後、最初にやったのがパンツの履き替えだもん。死ぬかと思った」


「くくくく。英雄の裏話だね」


「だけど、君もすごいよ」

「へ?なんで」

「末席とはいえ、12英傑と呼ばれる僕を動けなくした」

「あれは、ギルマスがスキルを受けてくれたからだよ」

「僕は若手冒険者にアドバイスするため、技やスキルをよく見せてもらうんだ。君のスキルはギルマスになってからの50年間で、一番強力に感じた」


「買いかぶりすぎ」

「中身は聞かないけど、まだ奥の手が沢山あるだろ」

「・・うん」

「30を越えたら上がりにくいレベルも、2ヶ月でかなり上がってるだろ」

「分かるんだ・・」


「僕は魔法の才能があったせいで、エルフの村では同世代のやつに嫌がらせを受けた。だから、余計なトラブルを避けたい、君の気持ちは分かるんだ」

「決闘して、人を殺したバカだけどね」

「いや、決闘の直接の引き金は、受付嬢のマリナを害されると思ったからだろ。だから、ギルマスとしても君をサポートしたい」


「人にこんなに気遣ってもらったの初めて」


「鑑定水晶を持ってくるから、ここでレベルを測ろう。何かあったときのために、信用できる他地区ギルドの人間の名前をリストアップしておくから、その人に相談して」

「本当にありがとう」


「魔王様と初めて会ったとき、あの人は一介の武人だった。だけど、絶対にこの人に付いて行くべきだと確信した。似た感覚を君に会って思い出したのさ」

「あんなすごい人を比較に出さないでよ。ギルマスだってリアルに英雄だし、身が縮んじゃうよ」

「ブライト王国の追手、奴らに囲われた神器持ち。不安要素はあるけど、気を付けて旅をするんだよ」


「ヤバいときは、ここに逃げてくるよ」

「ああ、出発は明日だったよね。ハルピインのギルマスも信用できるから、連絡しとくよ。明日までに紹介状なんかを揃えておくから」


「ありがとう。また明日ね」


私のレベルは45まで上がっていた。

14歳から18歳まで故郷で薬草採取の冒険者をやってレベル4。

転移魔方陣に吸い込まれて2ヶ月半でレベル4がレベル45は、異常だ。

以前では考えられないくらい好戦的な部分も否定できないし「沼」のオプションに色々と付いている可能性がある。


今が6月だから、来年中には夢のレベル100に届くかもとか期待してしまう。



ギルドの受付でマリナさんに挨拶をした。


旅に必要そうな物資を買い込んで、明日に備えて寝た。


◆◆


ダツタンを出発した。


次の大きな街はケイジュだけど、向かうのは

ハルピインだ。


理由はハルピインの周りの方がダンジョンが多いからだ。それも洞窟型。


フィールド型や遺跡型の方が解放感があって人気だけど、私には事情がある。

ブライト王国や神器持ちの追っ手が来ることを考えてレベル上げをしないとならない。


となると、スキル「沼」を十分に生かせる洞窟型がいいのだ。

レベルが上がった私の足なら、ダツタンからケイジュまで4日、ケイジュからハルピインまで4日が妥当か。


野宿は2日目と6日目に2回。残りは村か街で宿が取れる見込みだ。



「予定より進めたし、夜営しようかな」


2日目に少し街道を逸れ、収納指輪から特注の鉄の檻を出して置いた。

中にベッドを出して、寝る前に外に四つ79センチの小沼を設置すれば寝床の出来上がり。


パン、スープ、焼いた肉を収納指輪から出して、1人でニンマリだ。


「見てくれは悪いけど、寝床は防御力高いね。ご飯も腹一杯食えるし、追っ手が来たとしてもプラスの人生だ。沼様ありがとう!」


ぽちょん。


『呼んだな』

「おおっ、沼様だ」

『レベル4では長く話せねえけど、来てみた。質問はあるか?』

「レベル5になったら、長く話せるの?」

『まあの』


「なら今は質問はいいや」

『はい?』

「ありがとう沼様。お陰でビックリするくらい強くなれた」

『へ?』

「安心して眠れて、ご飯沢山食べて、きちんとした服も着れた。全部、沼様のお陰だよ」


『・・』

「沼様?」

『・・また来る』

「本当にありがとうね」

『・・うん』



良かった。どういう存在が分からないけど、やっぱり「沼」と話せたんだ。


お礼が言えた。森の中で一度だけ交信できてから、次を待ってたんだ。

選んでくれてても、偶然でもいい。私は沼のお陰で苦しい生活から脱出できたんだ。





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