第8話 洞窟は最高

私はソロ冒険者のサーシャである。ソロと書いてぼっちと読む、悲しい属性なのだ。


薬草採取で実績をつけて、どこかのパーティーに入れてもらう計画だったが、3日前に計画が崩れた。


「龍の牙」という3人組パーティーが獲物を横取りしようとした上に、受付嬢のマリナさんを脅した。


頭に血が昇って、2人を天国に送ってしまった。

その前の日にパーティー募集の張り紙を出したときは、反応がよかったらしい。けど、事件のあとは誰からも避けられている。


この街ではソロ確定なので、次の街に行くことに決めたが、その前に大掃除である。


「沼」がレベル3からレベル4に上がった。2ヶ月間、シルバーベアも含めた魔獣、私を襲いにきた盗賊なんかを沼に沈めまくってやっとだ。

射程距離10メートル、4分割可能までは同じだけど、なんと沼が最大で直径3メートルまで広げられるようになった。


だからゴブリンの洞窟に来ている。


少し前に洞窟を見つけて中を覗いたけど、以外に通路が広い。

洞窟自体は私の「沼」に向いているフィールドなんだけど、少しためらってた。


沼レベル4に進化して有効範囲が広がったのを機に来てみた。


そして、後ろにお客さんもいる。10人くらいの人間が私を追跡してるようだ。距離は100メートルくらい。

「龍の牙」の生き残りが、何人かの人間を引き連れて来たのかな?


レベルアップでここまでは分かるようになったけど、私ではこれが限界だ。


ここは森の奥で低級冒険者が入ってこない。


追跡者が追い詰めたと思ってくれたら幸いだ。


向こうは私のスキルは「影縫い」に似たカテゴリーと思ってるだろう。現にギルドでも、それをほのめかしてる。


距離を一気に詰めてきた。洞窟の手前で待っていると、30メートルくらい先に右手がなくなった「龍の牙」の生き残りがいた。

プラス、ゴロツキ風が7人で計8人。11人と思っていた私の察知力は低いことが証明された。


「な、なんでこんなとこにいるのよ!あんた「ゴブリンのハゲ」の生き残りよね」

しまった。すごい棒読みだ。


「龍の牙だ!仲間と右手の礼をしねえといけねえから、有志の皆さんに集まってもらった」


「くそっ。この中なら・・」

「その洞窟はゴブリンの巣だぞ。入ったら捕まって悲惨な目にあうだけだ」

「そんな、死にたくない・・」


私、演技下手すぎ・・


「こっちに来い。ボブのやつはお前に恨みがあるが、俺らが守ってやる」

「へへへ、守るお礼は、分かってんだろ」

「聞いてた以上にべっぴんじゃねえか。楽しみだぜ。げげげ」


「沼」スキルを得ても仲間はできないけど、こんな奴は集まってくる。「沼」が獲物を呼んでいるのかも。

あれっ。だとしたら私はエサだ。「沼」で強くなっていくと同時に綺麗になれて、喜んでいたけど・・


こういうクズを釣るため、ムチムチフェロモン美人に進化させられのが私なのかよ。

スキルよ答えてくれ。


『そうだよ。鋭いな』


「え、なんか言った?」

『ほら、アタイはいいから、前の敵を食わせろ』

「スキル沼なの、あんた」


『そうだが、時間切れ。寝る・・』


あ、そうだ強盗8人に追い詰められてるんだった。


「へへっ。サーシャだったか。もう絶望したか。呆然としてんな」


「あんたらなんかより、ゴブリンの方がましよ」

「あっ、ゴブリンの巣に飛び込みやがった」

「2人残して追うぞ」

「くそっ、せっかくの上玉だ。捕まえるぞ」


追手は6人か。全員で来てくれたら「沼」で一網打尽だけど、大きく問題にはならないだろう。


ゆっくり走って少し奥に行くと、通路が枝別れしてたけど、あえて左に行った。


袋小路で奥行き10メートルくらいの部屋。ビンゴだ!


ゴブリンが2匹いるけど、「沼」を出さずにナイフで仕留めた。


ドタドタドタ。


「へっ、行き止まりかよ」

「サーシャちゃん、運が悪かったな。早くも逃げ場がないぜ」


「6人みんな揃ったわね」


ぽちゃん。


少し余りを残し、2・8メートルの「沼」をつくったけど、でかい。


「スキル出したぞ。この影縫いみたいので誰か止められても、残りで押さえつけるぞ!」


最初の狙いは、この部屋の出口を塞いでるやつ。誰も逃がさないためだ。


一直線に沼を移動させて出口近くのやつの足をとらえた。その途中で4人を巻き込み、もう残りは1人だ。


「う、うわっ。沈む。おいっ話が違うぞ」

「なんだ女。その槍は」

「うげ」

「くひゅっ」

「ぐ、ががが」


特注の4メートル長槍を出して、沈みゆく5人の腹や喉に突き刺した。


「こうすると、早くお陀仏するのよね」

「お、お前は何なんだ」


たまたま龍の牙の生き残り、ボブ君が残った。こそっと沼の余りで作った、40センチサイズの小沼を右足の下に忍ばせて、動きを止めた。


「もうあんたの動きは止めた。仲間は全部で何人?」

「くそっ、靴を脱げば。脱げん」


なるほど、小沼に何かを沈める力はないけど、引く力は「沼」と同じように空間そのものに干渉している。ボブ君は膝くらいまで固定されている。

5人も完全に沈みきったし、実験だ。


「もうなんも、答えなくていいよ」

槍の反対側で胸を突いて押した。


「ぎゃあああ!」


人間は倒れるとき、必ず足の裏が上を向こうとする。そうしないと、股関節から下のどこかにダメージを負うからだ。


だけど、こいつの右足の膝から下は、真っ直ぐ立った状態から1ミリも動いていない。


それを後ろに倒そうとすると・・


「膝が、膝が痛くてたまらん、助けてくれ・・」

「ほれ」


小沼を左右にブンブン動かすと、やつの膝と太ももからゴキゴキと音が鳴り始めた。


「いぎいいいい!」

ゴブリンが悲鳴を聞いて集まり出したから、ボブ君ハンマーでゴブリンを撃ちまくった。


グギャッ!いでっ!キギッ! ゴン、ゴン!


遠距離攻撃を持たない相手で奥行き10メートルの部屋なら、私は強力なのだ。


部屋を出ると、右手の下に80センチ沼、左手の下に残り全部で大きめの沼を作った。本当は手を出す必要はなさそうだが、手を出すと動かすときにイメージがしやすい。


前に大沼、後ろに警戒用の80センチ沼を置いて、歩きながらゴブリンを飲み込んでいく。


大きめのゴブリンがいる部屋で全部のゴブリンを沼に沈め、お宝を回収した。


そのあと、洞窟の出口で見張りの2人を小沼でとらえ、拠点の位置を聞き出したあと「沼」に沈めた。


このスキル、やっばり強い。



「沼の声」がなんだったのか気になり、帰りに何度も呼びかけたが返事はなかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る