第7話 謎の薬草採取者

◇◆あるダツタンギルド冒険者◆◇


サーシャという女冒険者は最近ギルドで話題になっていた。


ナイフ1本を持ってズンズンと森の奥へ入り、かなりの薬草をとってくる。


たまには貴重な魔力回復ボーションの材料になるマナ草も取ってくる。


期待の新人だ。


ブライト王国から逃げてきた兵士だという噂で、悲惨な生活をしてたようだ。


ギルド併設の食堂では、金がない初心者冒険者しか食わない通称「底辺飯」を山ほど食う。


カチカチのパンと、薄いスープの大盛り。そこに自分で持ってきた、焼いたウサギ肉をぶちこみかっ食らう。


不味そうだけど、それをがっついて食ったあと必ず笑顔を見せる。


どんな食生活してたんだろ。


最初は貧相だった。


痩せて体はツルペタ、髪の毛もくすんだダークグレーだった。けど、食ってるうちに髪に艶が出て美しい銀髪になった。こけた頬もふっくらとしてきた。


顔を見て、エルフ族と間違った奴もいた。


腰は細いまんま胸や尻が大きくなり、短期間で肉感的な美女になりやがった。


多分、昔の知り合いが会っても、一目で分かんないレベルだ。


こいつが色んなもんを拾ってくる。


まず収納指輪。薬草をそっから出すからギルド職員が聞いたら、森で拾ったそうだ。


フォレストウルフ、ホーンラビット、ビッグボア、スモールボアも毎日のように拾って指輪に収納している。


サーシャが現れて2ヶ月くらいして、騒ぎは起こった。


「お帰りなさいサーシャさん。今日は薬草ですか、それとも何か拾ってきましたか?」

「マリナさん。今日は大物を拾ってきた。ここじゃ出せないかな」


「なら、ギルド解体場へ・・」

「もったいぶらず出してみろ」

「ガンゾさん、何を言ってるんですか」


「いやな、俺らのパーティーが仕留めた獲物が盗まれてな。犯人を探してんだよ」


パーティー3人組がニヤニヤしている。完全な言いがかりだ。


とたんにサーシャの雰囲気が変わった。

「泥棒おじさん、何をなくして言いがかりをつけたいのか、言ってみて」


「泥棒だと!」

「俺らCランクパーティー「龍の牙」にケンカ売ってんのか」


「いいから、獲物が何か言いなさい」


魔力じゃない。なのに見てると背筋が凍る、何か黒いもんがサーシャから吹き出している。


確かレベル32で登録したと言ってたが、雰囲気はそれを越えている。


「龍の牙」は素行の悪い3人組だけど、強化スキルを持っている。実力があるから、強気なんだ。


3人ともレベルは35くらいのはずた。


「マリナさん、ギルドとしては、この横取り行為はあり?」

「もちろんダメです。ギルマスに報告します」


「何だと受付嬢が!夜道を歩くときは覚悟しろ」


「・・マリナさんを・・。もう一回、言ってみろ」


サーシャから低く、おかしな声が出た。




「マリナさん」

「はいサーシャさん、この方々が言ったことは気にしないで下さい」



「私から、この「ゴブリンの糞」に決闘を挑むのはあり?」

「い、一応は双方合意ならアリです」

「姉ちゃんやる気か。いいぞ来い!」


「マリナさん」

「は、はい」

「双方が合意なら、武器と魔法アリのデスマッチもアリよね」


「なっ?」

「てめえ正気か!」

「ほ、本気か」


「き、規則上はアリですが・・」


「ねえ、冒険者が命がけで取ってきた獲物を横取りするなら、覚悟はあるのよね。私は3人にルールなしの戦いを挑むわ」



怒りだけが伝わる低い声。


「てめえ、獲物は拾ってきたって言ったよな」


「あれは嘘。トラブルが起きたから、本当のことを言う。みんな私が倒した。そしてこいつも、今日仕留めた」


収納指輪から出したのは、なんとシルバーベアだった。

「でかい」

「さ、3メートルくらいある」


「これをあなた方が倒したと主張するのよね。でも私も主張する。だから決闘よ」


怯む3人に追い討ちをかけた。


「ここで逃げても、私はあなた方を追い詰めるわよ。ブライトで心も体も、そういう風に作り替えられたわ」


ブライト王国で殺人兵士を作る実験体だったって噂だよな。何かのスキル持ってて、あのギルマスを驚かせたとか・・


「持ち物と命をかけてゲームをやるわ。まず誰がやる?」


「リ、リーダー、話が違うぜ」

「こんな小娘にナメられたらおしまいだ。やるぞ」

「ちくしょう。俺がやる」


訓練場に到着すると、デスマッチを聞き付けた冒険者や職員が見にきてた。


サーシャは長い槍を出し、構えもせず立てていた。


「へっ、リーチ頼りかよ。懐に入れば勝ちだ。スキル豪腕発動!」


ガンゾが5メートルくらいまで間を詰めると、サーシャが右手をかざした。


ぽちょん。


何かの音が聞こえると、ガンゾがこけて右足が変な方を向いていた。


ザクッ、ザグッ、ザクッ、ザグッ・・

「がっ、ぎゃっ、あぐ、あぐっ、ぎゃっ」


そこで転ぶのが分かっていたかのように、サーシャはガンゾに接近して槍でめった刺しにした。

「ぐえっ・・・・」


サーシャはガンゾを脇に蹴り飛ばすと、平坦な口調で言った。

「次」


「え、え?」

「来なさい」


「ちくしょう、身体強化!」


ガンゾの手下もかかっていったが、サーシャが手をかざすと左足にブレーキがかかった。


長い槍で腹を刺されて終った。


魔法、スキル? 分からねえ。


サーシャは戦闘中に相手を止めることができるようだ。それなら、大概の敵は仕留められる。


普段はにこやかだけど、顔色ひとつ変えずに、人を殺めた。

ブライト王国で作られた人間兵器という噂は本当なんだろう。


3人目が命乞いをすると、サーシャが3人目の右肩を刺して解放した。


だが、確信がある。3人目を見送るサーシャの目は、絶対に逃さないと言っていた。



次の日。薬草採取のサーシャはギルマスに呼ばれた。


出てきたサーシャは退屈そうに言った。

「マリナさ~ん、Fランクだと誤解を招くから、Cランクにしとくってさ」



どんどんサーシャは綺麗になっていく。身体にぴったりの革の上着は、Dカップの胸に押し上げられてる。



そして戦力もあって有能。


仲間にすれば薔薇色なのに、怖すぎて声をかけられない。






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