第6話 ダツタンの冒険者ギルド

サーシャ。結構ありふれた名前だ。


ブライト王国の追手が来る心配もあるし、新しく冒険者登録をしようと思う。


何も持ってない私だけど、物心つく前に亡くなったという母親からもらったものが、この名前だ。同じ名前で登録したい。


冒険者ギルドに入ると、広いホールに左側が受付カウンター。右に飲食スペース。だいたいどこのギルドも作りは同じと聞く。


午前中の中途半端な時間を選んだから、カウンターは空いていた。


「いらっしゃいませ。初めてお会いしますね。受付のマリナと申します。本日はどのようなご用でしょうか」


こういうとこで働く人は、元冒険者も多い。それも有能。だからある程度は本当のことを言う。


「はい冒険者登録をしたいんです。2日ほど前にブライト王国から逃げてきたもので、身分証は持っていません」

「はい・・。レベル鑑定と簡単な質問をさせていただきます」

「どうぞ」


鑑定水晶に手をかざすと、なんとレベル32と表示された。


「32・・。ブライト王国から来たのですのね。本来、ギルドは冒険者の行動に不干渉なのですが、ギルドマスターの部屋に来てもらえないでしょうか」


さっきから、職員風なやつらが2人、こっちを見ている。


「拒否したら、ここで拘束するの?」

「いいえ、出ていく場合でも引き止めません。ブライト王国に関する情報で、若い女性に関するものがあがってきているもので、お話を聞きたいのです」


「あそこの人達は?」

「いきなり信じろと言うのは無理ですが、その話に出た女性が保護を求めたら、手助けをするために派遣されております」


「多分、私じゃないけど、ブライト王国から逃げて来た身としては情報が欲しい。知ってることなら話す。それでいい?」

「ご協力ありがとうございます」


カウンター左の通路から2階に上がり、奥の部屋に向かうとエルフの男性が待っていてくれた。


「協力ありがとう、サーシャさん。ギルマスのルークです。中にどうぞ」

「あ、ども。サーシャでいい」


ソファーの片方に私、向かいにギルマスとマリナが腰掛け、いきなり本題に入った。


「サーシャ、君はブライトから逃げて来たんだよね。だけど民間人にしてはレベル32は高すぎる。最低でもCランク冒険者相当だ。だから来てもらった」


13日前までは4だったレベルが32。私が一番驚いてる。


「私はハプン共和国、ナンスの街からブライト王国にさらわれた」

「ブライトの人間ではないんだね」

「変わったスキルを持っていて、それなりに戦いに生かせたから、訓練させられた。だけど戦地に送られそうだったから、ちょうどいいタイミングで逃げた」


少し嘘を混ぜた。


「タイミングとは?」

「召喚・・」


「我々の情報と合いますね。あの国は異世界から黒目黒髪で四人の神器持ちを召喚したようです」

「だけどね、中の一人が召喚直後に暴れて、近衛兵が壊滅。逃亡の際に何人もの貴族が行方不明になり、その中に王の嫡男や公爵クラスも含まれてたそうだ」

「その人は若い女性で、姿をくらました。そこまで情報として上がっております」


王の嫡男か。「沼」の中に、そんなやついたっけ。そいつの収納指輪、中身を漁るの楽しみだな。


「私はその黒目黒髪が起こした混乱で、監視が手薄になったとこを逃げて来た。何人か人を殺めたけど、それは罪になる?」

「いや。少くともこの国では罪に問えないだろう。君以外に逃亡者はいるし、追手を殺めた人も何人もいる」


「安心した」

「ところで、あの国が魔国に攻め入ろうとしてるのは知ってたかい?」


私の疑問もそこなんだ。うまく聞き出したい。


「なんだか召喚者に魔国の王、魔王様を悪の親玉って言ったら、召喚者は簡単に信じたらしいね。なんでだろ」


「それは召喚者が住んでたニホンという国が特殊らしいんだ」

「特殊って?」

「国というか、ニホンがある世界には人族しかいないそうだ。それで、架空の物語で悪に例えられるのが、魔族や鬼族だってさ」

「なので、黒目黒髪の召喚者四人は、あっさりあのキチガイ王の言うことを簡単に信じたのでしょう」


「魔王様といえば、善政で有名なのに・・。悪性のブライト王国を批判して対立してるけど、あの人の国はいい国らしいよね」


「そうなんだ。魔王様は戦闘力も桁違いだから大丈夫だろうけど、注意を促しているよ」

「私、お金がたまったら魔国に移住したいのに・・」


「ところでサーシャは、スキル持ちなんだよね。冒険者登録するんだろ」

「そのために来たんだよ」


「普通ならFランクスタートだけど、レベル32なら試験を受けてDランクスタートでもいいよ」

「いや。スキルも鍛えたいし、最下位からでいい」

「スキルか・・」

「見る?」

「いいのかい?」

「ギルマス、レベル高いでしょ。そんな人に少しでも通用するか試したいし」

「ああ、レベル252。訓練場に行く?」

「いえ、火とか出ないし、スキル自体は危なくないから、いいのならここで出す」

「・・ならどうぞ」


私は60センチの沈まない「沼」を作って、ギルマスの右足の下に移動させた。


「ふむ、それで?」

「それだけ。足を動かしてみて」

「ニンジャの影縫いみたいなスキル?前に一度食らったな。ん?ぬぬぬぬぬ、ぐぐぐぐ」


「どう外れそう?」

「いや、これは前に経験した影縫いより強い。それに根本的なものが違う気がする。建物が壊れるくらいパワーを解放しないと外せないと思う。足の裏が完全に固定されてるから、動きも限定される。有用だ・・」


「まあ、スピード、射程距離、範囲とか欠点だらけだから、本気のギルマスなら楽勝でしょ。魔獣や盗賊相手なら有効だったよ」

「うん、これは狩りには大いに使えそうだね」

「本当?パーティー組めるかな」


「誰かと組みたいの?」

「あ、いや。今までぼっちだっから・・」

「ははは、今後よろしくね。それから手続き完了させてねマリナ」



冒険者にもなれたし、ギルドも友好的だ。

それにスキルが高レベル者にも効くという収穫があった。

ブライト王国のことは気になるけど、しばらくはこの街で活動しよう。




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