第3話 剥ぎ取りタイム
おそらく、イレギュラー召喚の影響。
考えてる暇もないけど、凶悪なスキルを手に入れた。
「沼」レベル3。
人の足元に出すと、そいつを飲み込んでしまう恐ろしいスキル。
もちろん物も沈んだ。
いきなりレベル3。
扱える沼の広さが直径80センチから2メートルに広がった。
さらに四分割も可能。だけど、今は実験や検証する暇がない。
安全確保が第一でしょ。
まだ、独裁国家ブライトの王城の謁見の間。敵地の、ど真ん中。
とんでもないとこに、いるでしょ。
王と側近は逃げた。
追って、護衛もまとめて「沼」に沈めるてやりたい。ムカつくもん。
だけどこのスキル、足元にしか出せない。
射程も10メートル。
遠距離間から高位魔法、弓攻撃で一巻の終わり。立体的な攻撃への防御手段がない。
2度再発動させたスキルは、必ず足元にできた。
逃げた兵士から、私が未知のスキル持ちだと伝わってるはず。
内容が派手だから、王は高い戦闘力を持つ者を呼び寄せる。
きっと、場内は手薄だ。
動くなら今。
王が去った方のドア前に蓋をしたい。
なのに、今いる謁見の間には適したものがない。
沼の中になら・・
そういえば、沼の中に吸い込んだものは取り出し可能なのだろうか。
意識した。私が沈めたものリストが頭の中に浮かんだ。
剣は28本。ミスリルソードを出したいと思ったら、前方2メートル、高さ2メートルの位置に丸い淀みができた。
「沼の底」という。
いや、勝手に名前つけてないよ。頭の中に沼の底と正式名称?が言葉が浮かんだ。
沼の底からミスリルソードが落ちてきた。
収納代わりになるかも。
沼の中は時間の経過もある。
兵士27。死んだ兵士のことだろう。なぜ仏様と分かるか?
残りの兵士にはバルセなど、名前が付いていた。
だけど、再び確認すると、バルセの名が消えた。そして兵士28になっていた。
ね、間違いないよね?
とりあえず、扉の取っ手のとこに、ミスリルソードが閂のようにはさまった。
あと、扉の前に死体を2体転がしておく。
追手の邪魔をするつっかえにもなるし、骨がバキバキの死体は精神攻撃用。
見たら、敵の警戒度が上がり、追撃のスピードも遅くなると思う。
ここは王城でかなり広い。「沼」が直径2メートルになって、強気な私はガンガン進んでい。
目論みは当たり。ストン、ストンと兵士だろうが貴族だろうが、沼に沈めてくれた。
途中で迷って、下の方に降りて入った部屋。装備や備品の部屋だった。
私に対応するためか、数人の兵がいて鍵が空いていた。
素早く接近して兵士、ミスリル製品、ポーションや、収納指輪、宝石を根こそぎ「沼」に沈めた。
多くの収納指輪にも中身が詰まっているようだ。沼には、いくらでも入る。
この独裁国で王城にいる人間は兵士も爵位を持ち。民から搾取して贅沢していると聞いている。
ためらうことはない。
沼を手にして残酷になった私は、人間も物資も沼行きの刑にした。
城門前。4人しか警備が残ってなかった。
奪った鎧を着けて近付くと油断してた。4人とも一気に「沼」にとらえてやった。
とっぷ~ん。
あっさり城下町に出ると、その日のうちに街から脱出。
次の街で一泊して早朝に歩き出した。向かっているのは国境が近い北。
私の拠点は南だけど、今はこの国を出ることが先決だ。
ただ手元の現金が、一泊で尽きた。本来の私は貧乏なのだ!
そこはいい。
今から逃亡資金を剥ぎ取る。
岩場があった。切り立った大きな岩の端。
そこに立って、沼の底を出現させた。そして、一人だけ名前を覚えてた、ブルル伯爵が出るように念じる。
とぷんっ。ブルルが出てきた。
けど、下まで5メートル。着地点も岩だらけ。
「出られた?うわわわ」
ごきっ。「がっ!」痛そうな音と声。
岩場に激突して、バタバタと転げ回っている。
「ねえブルル」
「はあっ、はあっ、なんだお前は」
「質問に答えて」
「なんだここは、さっきまでいた場所は何なのだ?」
沼を発動。ブルルの横に移動させた。
「質問してるのは私。もう一回、その中に入ろっか」
「ひいい、お前がやったのか。もうやめてくれ。あんなとこに行きたくない」
「穴の中には何があったの?」
「茶色と黒でうねった泥沼のような世界・・」
「認識できたのね」
「そ、それより手当てをしてくれ。足も腹もひどく痛む」
「質問に答えるのが先よ。中には何があったの」
彼は見た。
泥の中。そんな感じなのに、視界はクリア。まわりには、兵士がたくさんいた。
大半は、何かに絞られたように、ねじれて死んでいた。
「数人だけ、辛うじて生きていた」
「あなたは兵に助けを求めなかったの」
彼は、助けろと言ったが、聴こえてなかったようだ。向こうも自分に気づいた。
なのに、お互い声が聞こえず、手足は動くのに中空に浮いたまま、そこから移動できなかった。
私のスキル。あれは何だと聞かれたが、私も分からぬ。
「もういいだろう。手当てを・・」
「助けてあげてもいいけど、ただではダメよ」
「金か。収納指輪にあるぞ。いくら欲しい」
「そうね100万ゴールドもあれば十分かしら」
「100万と言わず、金貨を山ほどくれてやる」
「まじ?」
「受けとれ、ほらっ!」
ナイフが目の前に迫っていた。油断した。
普段は小さな銀貨一枚、すなわち1000ゴールドの使い方で悩んでいる底辺冒険者の私。
金貨への期待で前のめりになってしまった。
情けない、そしてピンチ。
と思ったけど、難なくかわせた。ブルルの手首を手刀で打って、パンチをかましたら、ブルルが派手に吹き飛んだ。
かなり、レベルアップしてたようだ。
大きなメリットと、大きなリスクも同時に頭に浮かんだ。
だけど、ぼんやり考えてる暇はない。ブルルに駆け寄って収納指輪を外し、ブルル本体は再び「沼」に沈めた。
そして国境を越えた隣国の街「ダツタン」を目指した。
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