第4話 スキルのリスク
ブライト王国の王城を脱出して8日。
あと2日ほどで国境を越えられると思って、少し気が緩んだときだった。
林道を歩いていると、かすかに気配を察知した。以前はできなかったことだ。
周りを見ると、みんな無反応。
歩いている人が5人いて、中の3人が冒険者パーティー風。馬車が2台。
ここ数日は魔物と人を相手に無双してるから、ちょっと格好つけてしまった。
「私は冒険者です。森の中から魔物が来るから逃げて下さい」
「え?」
「急いで」
「はいっ」
「うわわ!」
馬車と一般人2人は駆け出した。
だけど、冒険者3人は逃げるどころか、こっちを睨んでる。
最悪だ・・
「おい姉ちゃん、何にも来てねえぞ」
「50メートルくらい森に入ったとこに、大きな気配を感じるの」
「おいマイク、何か分かるか?」
「いや、俺の探知には引っ掛かってない」
「姉ちゃん、ランクは?」
「・・Eランク」
「へへへっ、俺らCランクだ。低ランクのざれことに惑わされないぜ」
「薄汚ねえが、顔は悪かねえ。詫びに次の街で酒に付き合え」
「もちろん夜もな。なんかそそられるよな」
Eランクを明かしたのは失敗。
160センチでボロボロの服を着た私。
きれいな装備をまとった大男3人になめられてる。
だけど間違いなく、私は何かを感知している。
感知スキルはない。けれど感覚は鋭くなった。
この8日間、かなり生き物を殺した。
ブライト王城で人を100人くらい「沼」を使って死なせた。旅の中で魔物も沼に沈めた。
その経験値は私にも入っている。
レベル4にしては能力が上がりすぎた。
もしかしたら、このCランク冒険者の3人よりも強いかも。
「おい、何とか言えよ」
「もう、その辺の林の中に連れ込まねえか?ガリガリのくせに、何だかムラムラさせられるんだ」
「ん、待て。何かいきなり近づいてきた」
「ガアアアア!」
「かなり大きい熊ね。3メートルくらいある」
「げ、シルバーベアだ。ヤバい」
「女に構ってる場合じゃねえ、どうすんだ」
「私、警告したよね。逃げろって言ったじゃん。じゃあね」
「おいこら。てめえ、俺らに押し付ける気か」
「魔物が来るのに、信じなかったのはあんた達の方よ」
「まずい、もう逃げられねえ」
「じゃあね」
森の方に入ってやり過ごす。シルバーベアが私を追って来るなら「沼」を使って倒せばいい。
2日前にグリーンウルフ3頭と遭遇した。
沼を2つ出して簡単に捕らえて沈めた。以前の私なら死亡確定の相手だ。
「沼」は強い。
ウルフはまだ生きてるけど、私が出さない限り餓死確定。
「うおおおおお!」
「がルルルル!」
「え?」
最低だ。
あいつら戦わず、私の方に熊を引き連れてきた。
Eランクと馬鹿にした私に、シルバーベアを押し付ける気だ。
腹は決まった。
もう少し森の奥に入り、振り返った。
「観念したか、底辺女」
「俺らの代わりに、熊に食われろ」
「いい響き」
これなら、ためらわず男達も殺れる。
とぷんっ。
沼を出す。右手で操作して男3人の足を捕らえる。
シルバーベアじゃないよ。まず、男共。
「なんだ、沈んだぞ」
「湿地帯か、やべえ」
「うそだろ、おい」
「熊の方に行け!」
「うおおおお!」
足をとられた3人を「沼」で、シルバーベアの目の前に動かしてやった。
ゴアアアアア!
「ぎゃああああ!」
「ぐげっ!」
「くるなあああ!」
ぐしゃぐしゃになった3人が沈みかけたとき、シルバーベアも右足が沼にはまった。
とぷん。
「ゴア?」
強い魔物は足首が沈んだくらいでは慌てなかった。私との距離は5メートル。
フュイイイン。
「え、何かしてる。やばい」
しゅぱ、ぶしゅっ!音とともに、太ももを少し切られた。
飛んで逃れたが風魔法だ。痛みが走る。
これが一つ目の弱点。
私の「沼」は10メートルが射程距離。そして沈むまでにタイムラグ。
この熊の魔法のように、敵は足をとらえられたあとでも反撃できる。
「くそっ。もう次の魔法撃ちそう。こうしてやる!」
沼を左に大きく振って、次の魔法に集中できないようにした。
今度は右。右左、右左、右右右、左。無茶苦茶に動かした。
沼を使えば、熊の巨体でもゴブリンでも重さを無視して動かせる。
「ごがああがぁ・・・・」
とぽんっ。
「やっと沈んでくれた。ふうっ」
シルバーベアをEランク一人で倒せた。沼の強さは尋常じゃない。
思い直して、辺りを見回した。誰にも見られてない。
二つ目の弱点。それは人前で使えないことだ。
生きた人間でも飲み込む。
最初の兵士達がパニックになったし、見るものからすれば恐怖だ。
そしてブルル伯爵を尋問した。「沼」の中が見えていた。
何人か試したが、例外なし。
そう、一緒に入れていた人間の死体も、みんなクリアに見られていた。
間違って、知り合った人を「沼」に入れてしまったら・・
出してあげられるけど、殺人鬼扱いされる。
本当に残念だ。
孤児で底辺冒険者。スキルもショボかった。
冒険者の顔見知りはいても、仲間はいなかった。
8日前に強力スキルを手に入れた。逃げながら、強い冒険者になれば仲間ができると期待した。
だけと、この「沼」スキル。秘密にしないと私の身が危ない。
前みたいにひもじい思いはしない。
だけどソロ冒険者を継続するしかない、悲しい匂いがプンプンする。
私はクズ冒険者3人を沼の底から出して、めぼしい物を剥ぎ取った。
奪ったポーションを痛む太ももの傷にかけ、国境に向かって歩き出しだ。
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