第36話 仕事先で先代と遭遇した話

ドラゴン討伐を依頼してきたのは、とある村だった。

それこそ、人が拐われて食われたり、その場で食われたり、という事が多くなっていたらしい。

凶暴化しているかは正直わからない。

元々ドラゴンは気性が荒く、凶暴な魔物だからだ。


「村民の情報では、どこかに巣があるんだろうとのことです。

なんでも、近くには山がいくつかあって、そこから飛んでくるらしいです。

帰る時もそちらに飛んでいくとか」


「なるほどねぇ」


ラインハルトの説明を聞きつつ、俺は馬車を操作する。

途中途中で休憩を挟みつつ、その日の昼には、件の村に着いた。

まさかSランク以上の冒険者が三人も来るとは思っていなかったのだろう。

村長は、とても驚いていた。

良くて一人だと思っていたに違いない。

依頼の難易度は、A。

なので受けられるのは冒険者ランクで言うなら、Bランクからだ。

討伐目標数は百体。


「あの山です」


と、指さされたの先を見る。

どこにでもある普通の山が見えた。

ここから先は馬車では進めないので、村に預けて出発した。

ミーアの【索敵】スキルと、ビクターの【鑑定】スキルで巣の位置を割り出す。

それらの情報を地図と照らし合わせる。

そして、巣を見つけた。


巣に向かう道中で、ドラゴンとの遭遇戦も増えた。

けれど、そこはさすがにこういったことに慣れている奴ばかりだ。

難なく進んでいく。

でも、


「父さんがドラゴン飼ってただけに、やりずれぇなぁ」


自分を育ててくれた父親の片方は、ドラゴンを二匹飼っていた。

なんなら、そのドラゴン達はよく俺と遊んでくれた。

真っ白なドラゴンと、黒くてキラキラしているドラゴンだ。

寿命が長いから、まだ家にいたりする。

個人的には、可愛がっていたペットと同じ種類の生き物を手にかけていることになる。

今回だけではなく、前もやりずらかった。

けれど、仕事なので割り切った。

そんなこんなで、討伐数が六十を超えたあたりで巣にたどり着いた。


その巣は、巨大な洞窟だった。

ぽっかりと開いた、その穴の前に三人の人間が待ち構えていた。


「ほんとにいた」


そう呟いたのは、ミーアだった。

エール、ラインハルト、ビクターも驚きを隠せないようだ。

そんな俺たちに向かって、クィンズが言った。

正確には違うが、便宜上こう言ったほうがいいだろう。


「待ったぞ」


クィンズの言葉とともに、ほかの二人――カインと、ルーディーが彼を守るために戦闘態勢を取る。


「だろうな」


俺の言葉に、その場の全員の視線が集まる。


「この挑発にわざわざ乗ってくれたことには感謝する」


「……どうやら、全て知った上でここに来たってことか」


先代総長だった男の皮を被った死者が言う。


「その口ぶりから察するに、テメェも自分がどんな存在か理解はしてるみたいだな」


「理解するしかない。

そこの女に会ってから、知らない記憶ばかりが蘇ってきたからな。

それに、後ろ盾だった幹部が倒れたんだ。

もう、俺達にはどこにも居場所がない」


なるほど、エールとの接触はそれなりのショックにはな

っていたのか。

そんでもって、今回のことで魔族側での立場がなくなりつつある、と。


「カインさん、ルーディーさん」


横で、エールが生きていた二人に声をかける。

二人は、懐かしそうに、愛おしそうに目を細めてエールを見た。

生前のクィンズとは幼なじみだったらしいし、その妹であるエールにも何かしら思い入れがあるのだろう。

でも、二人は何も言わなかった。

エールの呼びかけを遮って、クィンズが言った。


「今、魔族側で立場を確保するには、どうすればいいかわかるか?」


クィンズの問いかけは、俺に向けられていた。


「四天王二人を倒した、俺の首を手土産にする」


「話が早くて助かる」


クィンズは指を鳴らした。

洞窟から、ドラゴンがノソノソと出てくる。

それだけではない。

空から、森の中から、現れる。

あっという間に囲まれてしまった。


そして、


「俺達のために死んでくれ【魔族殺しの英雄デモン・スレイヤー】」


なんかよくわからん二つ名で呼ばれた。

いや、【クラン潰し】より格好いいから別にいいけど。


「殺せるもんなら殺してみろよ、先輩」


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