第37話 選択肢

 ドラゴンたちの一斉攻撃が始まった。


「んじゃ、あとよろしく」


 エール達にそう言って、俺はドラゴンの群れをスルスルっとすり抜ける。


「え、ちょ、ウィンさん!?」


 エールは、追いかけてこようとする。

 そんなエールに、俺は、


「エール、あとで引っぱたかれてやるから、そこにいろ!!」


 そう言葉を投げた。

 その意味を、多分彼女は理解してくれたと思う。

 だって、今にも泣きそうな顔をしていたから。


 俺はあっという間に、先代たちとの距離を詰め、その前に立った。


「俺には勝てない。

 それは、わかってるよな??

 先輩方??」


 カインとルーディーは、どちらも苦々しい表情をしている。


「それでも、その屍と運命をともにするかい?」


「お前になにがわかるっ!

 こいつは俺たちにとって!!」


「あー、いいからそういうの。

 俺は確認してんの。

 その偽物のクィンズさんと運命をともにするか、否か。

 それを聞いてんの」


「クィンズは死んでない!」


 剣を構え、カインが叫んだ。


「体が動いてるだけだろ。

 人格は別ものだ。

 お前たちが知ってる人間じゃない。

 わかってるからこそ、カイン、お前はこう言ったんだろ?

 浮かばれないって」


 俺は、相棒から布をとる。

 そして、鞘とともに構えた。

 俺の言葉に、カインが動揺した。


「カイン先輩はわかってるんだろ。

 もう、その先代総長は死んでる」


「クィンズは死んでない!!」


「いいや、死んでるね。

 少なくとも、死んだことにしたかったはずだ。

 そうでなければ、エールを苦しませることになっただろうからな。

 俺はこっちの人間じゃないから知らなかったんだが、魔族側に付いた人間は、その家族も含めて裏切り者よりも酷い言葉で罵られ、奴隷よりも酷い扱いをうけるらしいな。

 それを避けたかったんだろ?

 だから、この二年間、エールの前には姿を見せなかった。

 ずっと死んだことにしておいた。

 違うか?」


「そ、それは」


「あんた達のことを調べた。

 んで、あんた達のことを知ってる人達から話しを聞いた。

 評価に関しては賛否両論あった。

 でも、どの人も共通してたのは、エールを大切にしていたクランだったと言ってたことだ。

 エールも言ってたよ、アンタらがいた頃のクランは【優しいクラン】だったってな。

 つまり、あんたらの作ったクランは、エールにとっての優しい場所だった」


 俺は、構えはそのままに聞いた。


「なに、簡単な話だよ。

 俺をエールにとっての悪者にするか、アンタらが人類にとっての悪者になるか。

 それだけの話だ。

 さぁ、どっちがいい?

 どっちなら、エールを苦しませない?


 簡単だろ?

 アンタらはエールが大切なんだから」


「どうして、そこまでするの?

 総長になってくれって、頼まれただけでしょ?

 それとも、エールに惚れた??」


 逆にルーディーが聞いてくる。


「あはは、まさか。

 まぁ、今まで俺の周りにはいなかったタイプで新鮮だけど、それはないかなぁ。

 まぁ、強いて言うなら、初対面の時に、ちゃんと俺を見て必要としてくれたからかな。

 その恩返しで、悪者になるくらい安いもんだ」


 俺は笑った。

 笑って、笑顔で先代たちに問う。


「さぁ、選べ」


 最後、偽物であるはずのクィンズと目が合った。

 クィンズは、何かを諦めたような、けれどどこかエールに似た笑みを浮かべていた。

 カインとルーディーの二人が、クィンズを見た。

 クィンズは、頷く動作をした。

 そして、二人が俺を殺しにかかってきた。

 その首を落とす。

 さらに、指を鳴らそうとしたクィンズへ一気に距離を詰め、


「アンタらは、魔族だった。

 ヴァルデアとディードの仇討ちで、俺が所属していたこのパーティを襲った」


 そう言いながら、クィンズの心臓を一突きする。

 たしかな手応えがあった。


「そういうことになる」


 この言葉が聞こえていたかは、わからない。

 でも、もう二度と彼は動くことは無かった。

 背後で、エールの悲痛な声が上がる。

 デタラメに、滅茶苦茶に回復魔法の魔方陣が出現する。

 それらを切り裂いて、俺はエールの元に戻る。

 エールが俺を見た。

 その顔は、涙でグチャグチャだった。

 俺は、彼女を気絶させた。

 これ以上、回復魔法を発動させないためだ。


 それから、相棒を一閃させてその場のドラゴンを討伐した。

 さすがに数が多すぎて、ラインハルト達が苦戦していたのだ。


「はい、終わり」


 俺は相棒を鞘に収めた。

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