第35話 そして、ドラゴン討伐へ

「それは、どういうことですか?!」


 食いついてきたのは、エールだった。


「それを話す前に、確認したいんだけど。

 エール、あのさ、『カイン』と『ルーディー』って名前に覚えはあるか??」


「えっ」


 エール、ラインハルト、ミーア、ビクターの顔色が変わった。

 俺は気にせず訊ねた。


「あるんだな?」


「はい。その2人は、お兄ちゃんの幼なじみです。

 先代【神龍の巣シェンロン】では、それぞれお兄ちゃんのことを右腕、左腕として支えてくれていました」


「なるほどなー。

 うん、実を言うとな、会ったんだわ。

 魔族と一緒に俺を襲ってきた」


「「「「!!??」」」」


 四人がさらに驚いた。


「まぁ、ディードとの戦闘に集中してたらいつの間にかいなくなってたけどな」


 俺はその時のことを説明した。

 もちろん、エールの兄に起きたらしいことも包み隠さずに話した。


「そんな、お兄ちゃん……」


 さすがに、ショックだったのかエールは泣いていた。


「エール、悪いがお前の兄はすでに死んでる。

 体は同じでも、アレは別人だ」


 かなり残酷な事実を突きつける。

 でも、仕方ない。

 いつかは知ることになるのだから。


「それで、これからどうするつもりなんだよ??」


 ビクターが聞いてきた。


「とりあえず、スライムの実験してた人を眠らせないとだよな」


 俺は、エールを見た。

 エールは、かつてこう言っていた。

 空っぽの棺を墓に埋めた、と。

 それは、さすがにあんまりだろうとは思っていた。

 気持ちの整理をつけるために、形だけの葬儀をして空っぽの棺を埋めた。

 儀式としては、すでに完了している。

 でも、やはりちゃんと眠らせるべきだろうな、と思ったのだ。


(父さんが聞いたら、なんて言うだろう)


 そう考えたが、考えても仕方の無いことなので、考えるのをやめた。


 俺の言葉に、エールが頷いた。

 生きていて、動いていてほしいだろうに。

 エールは、兄を眠らせることを選んだ。


「簡単に言いますけど、会えるあてはあるんですか??」


 ラインハルトが言った。


「まぁ、一応な」


 すぐにラインハルトが返す。


「君が捕まえた魔族に聞こうとか思ってます?

 それなら無駄ですよ。

 あの魔族、王都に運ばれたそうですし」


 ふーん。


「んー、まぁ確実ってわけじゃないけどな。

 やれるだけやってみようかな、と」



 そして、翌日。

 ラインハルトに頼んで、適当な討伐依頼を受けてもらった。

 冒険者ギルドから離れた馬車を停めて、手続きを終えたラインハルトがやってくるのを待った。

 俺が手続きしても良かったとは思う。

 けれど、昨夜の騒ぎがあったから顔を出すのは憚られたのだ。

 昨日の今日で、本当ならもう少し詳しく事情聴取される予定だったし、なんならギルドマスターは俺を外に出すのを渋った。

 しかし、事実を説明して説得させた。


「冗談はいうけど、嘘はつかない。

 なんなら、約束だけはちゃんと守る」


 という俺の言葉を、ギルドマスターは信じてくれたらしい。


「戻りましたよ。

 受けた依頼は、お望みのドラゴン討伐です。

 場所は、国境近くの村ですね。

 パーティメンバーについても、私、ミーア、ビクター、エール、そして君で申請しました」


「受付さん、驚いてたろ?」


「えぇ、昨日の今日ですからねぇ。

 もう働くのかーって驚いてました」


「それで、なんて言ったんだよ?」


「君が、英雄という名の見世物になりたくないから駄々こねたって話しました。

 それで、ドラゴン討伐でもしようってなったって言ったら笑ってましたよ」


「だろうなぁ」


 俺は、地図で場所を確認する。

 そして、目的の場所を目指すため手網を握ったのだった。

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