第34話 情報共有

 ***


 回復魔法かけてもらったから、油断してた。

 全回復したわけじゃないので、俺は盛大に粗相をしてしまった。

 情報酔いと、疲れていたところに【身体強化】使って無理やり調べ物したから、盛大に目を回したのが原因だった。

 つまるところ、盛大に吐いてしまった。


「わりぃ」


 俺は、ギルドマスターに貸してもらった職員用のシャツに着替えながら、謝った。

 謝った相手はビクターだ。

 ビクターも、職員用のシャツを貸してもらいそれを着ている。


「ほんとなんなんだよ、お前は!?」


 キレるのはよくわかる。

 ほんと、ゴメン。

 実はまだちょっと気持ち悪い。


「いやぁ、君もちゃんと人間だったみたいで安心しましたよ」


 なんて言ったのは、ラインハルトだ。

 人がゲロ吐いてるの見て安心するとか、変態か、変態なのか、こいつ。


「あ、あの、本当に大丈夫なんですか?

 我慢してません??」


 そう聞いてきたのはエールだ。


「してないしてない」


 俺は手をパタパタ振って答える。


「つーか、お前らも悪かったなぁ。

 わざわざ捜すとか手間取らせて」


 なんて言った時だ、バタバタと慌ただしい足音が聞こえたかと思ったら、部屋の扉がばぁんっと開いて、ミーアが現れた。


「おい! ウィンの奴が死んだってほんとか?!」


 ミーアがそんなことを言ってきたので、俺はそちらにも手を振って、


「生きてる、生きてますよー、この通りピンピンしてますよー」


 と、アピールした。

 情報の錯綜が酷いな。

 ミーアが目をぱちくりする。


「驚かせるな!」


「いや、驚いたのはこっちだって!

 生きてるのに死んだことにされちゃ、たまったもんじゃねーぞ」


 調べたら寝るつもりだったんだけどなぁ。

 事情を説明しろ、と言われてしまった。

 話すまで、帰るつもりはなかったように見えたので、簡単に説明した。


 なんで一人で街中にいたのか、という点に関しては、


「調べ物があったんだよ」


 とだけ話しておく。

 さすがに、他のクランの人間に話していい内容には思えなかったのだ。

 ちなみに、ギルドマスターは全て知っている。


「それは、本当です」


 そう言ったのはエールだった。

 ラインハルトが顎に手を当てて、考えつつ、訊ねてきた。


「それは、今回の魔族襲撃と関係があることですか?」


「まぁ、無関係ではないな。

 でも、向こうの目的はヴァルデアの仇討ちだった。

 調べていたから襲ってきた、ってわけじゃなく、ヴァルデアを倒したから襲ってきたわけだ」


「……その調べ物の延長が、この大量の記録ということでいいですか?」


「お前、そこは見ないふりしてくれよ。

 つーか、これは【神龍の巣シェンロン】の問題だからさー」


 言いつつ、俺はエールを見た。

 エールも、俺を見ている。

 話すべきかどうか、迷っているように見えた。


「おいっ、人にゲロぶちまけておいて無関係とか言う気か??」


 そう言ってきたのは、ビクターだった。

 クラン壊滅後、こいつはこいつで色々大変だと聞いていたのだが、思いのほか元気そうだ。


「ゲロ吐いたのは、ほんと悪かったと思ってる。

 でもなぁ、話すと巻き込むことになるからなぁ。

 なぁ、エール、どうする?」


 これは、少なくともエールの問題だった。

 だから、エールに聞いてみた。

 ビクター、ラインハルト、ミーアの視線がエールに集まる。


「……そう、ですね。

 これ以上のご迷惑は、掛けられません。

 ウィンさんも、巻き込んでしまったのは事実ですし」


「あ、俺のことは気にしなくていいから。

 強いヤツと戦えて、むしろエールには感謝してるくらいだからさ」


 軽く、そして笑顔で言ったら苦笑された。

 すると、ビクターが口を開いた。


「そんなこと言ったら、そもそもこいつが襲われたのは、俺たち【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】を助けに来たのが大元の原因だろ。

 あそこでヴァルデアを倒さなかったら、こんなことにはならなかった」


 その言葉に、一番驚いているのはラインハルトとミーアだった。


「あの時の借りを返してやるから、何に巻き込まれてるか言ってみろ」


「まぁ、こちらは約立たずではありましたけど、一緒にダンジョン攻略した仲ですしね。

 お陰で、こちらも生きて戻ってこれましたし」


 続いたラインハルトの言葉に、ミーアもうんうん頷いている。

 エールが俺を見た。


「これは、エールの問題だ。

 だから、エールが決めろ」


 俺の言葉に、エールは頷いた。

 そして、三人へ何を調べていたのか説明した。

 説明するにあたって、あのスライム討伐のときのことも話した。

 三人とも、先代【神龍の巣シェンロン】の総長、クィンズとは顔を合わせたことがあるし、なんなら言葉を交わしたことがあるのだ。

 だからこそ、とても驚いていた。

 俺は、魔物の凶暴化の部分について補足する程度の口を挟んだ。

 そして、話を聞き終えるとラインハルトがもう一度、記録を見た。


「なるほど、当時の事を調べていたのはそれが理由だったと」


「しかし、信じられないな。

 死んだ人間が実は生きていて、魔族側についたなんて」


 ミーアがそんなことを口にした。


「正直、私自身も自分の目が信じられないんです。

 でも、アレはたしかにお兄ちゃんでした。

 私には、そう見えました」


 シーンと静まり返る。

 んー、ここまで話したんだし、言うか。


「まぁ、ぶっちゃけるとその遭遇した人物がエールの兄だってのはほぼ確定したんだわ」


 俺の投げた言葉に、その場の全員の視線が集まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る