第31話そして、またタイマンした話 中編

 雷撃を避ける。

 同時に、背後に気配!

 さらに飛び退くと、相手の蹴りが空振りするのが見えた。


「これも避けるか」


 静かに、相手が言った。

 それは、魔族だった。

 程よく筋肉のついた体。

 褐色の肌と背中には蝙蝠を思わせる翼があった。

 楽しげに、その魔族は一気に距離を詰めてきた。

 やっべ、早っ!!


 さらに蹴りが放たれる。

 それを片腕で防ぐ。

 ミチィっと、肉が断ち切れる嫌な音がした。

 骨は折れていないと思う。


「人間にしては、頑丈、だなっ!」


「……お褒めに預かり光栄だ」


 言葉を返しつつ、間合いをとって、構える。


「魔王軍四天王が一人、ディードだ」


 魔族が名乗ってきた。

 ヴァルデアといい、礼儀正しいな。

 いや、ディードの場合は奇襲してるからそうでもないか。


「ご丁寧にどーも」


「しかし、ヴァルデアを倒したにしては若すぎる。

 どんな手品を使ったんだ??」


「……調べて知ってるだろ」


 情報共有はされてるはずだ。

 にも関わらず本人に聞いてくるということは、半信半疑か、もしくはさらに情報を引き出そうとしているのだろう。

 でも、前者かもな。

 だって、普通人間は雑魚魔族ならともかく、大幹部クラスの四天王は基本倒せない。

 それを倒せた個体が人間から現れた。

 しかも、それが勇者でもない。

 なにかしらカラクリがある、と考える方が自然だろう。


「余計なお喋りはしない、か」


「なんだ?

 ちょっとそこでお茶でもしない?って誘われたかったか??」


 軽口を叩いてみた。

 一見すると堅物そうだが、楽しげな表情をしているところを見るとそう言った話が通じるタイプなのだろう。


「というか、いま俺が襲われてる理由って、アレか。

 ヴァルデアの仇討ちってやつ??」


「それもある」


 

 ほかにも理由があるのか。

 なんだろ??


「お前を殺した方が都合がいいんだ」


「はっ、ほぼ能無しに近い俺を殺しても自慢にもならねぇだろ」


「そうでもないさ。

 あぁ、これを言った方がお前は本気を出すかもな。

 全力の本気で相手された方が、魔族としては嬉しい。

 たとえ、それが人間でもな」


「…………」


 俺は黙ったまま、ディードを見た。

 ディードは、背後の人間二人を視線は俺に向けたまま、親指をさす。


「お前が知りたがっている答えの一つを与えてやろう。

 こいつらのリーダーは死んだ。

 その後、魔王軍でその死体を有効活用させてもらった。

 お前も、会ったんだろう??

 あの【研究者】に」


 研究者、ね。

 まぁ、答え合わせしてくれて助かった。

 以前、スライム討伐の依頼で出会ったあの青年。

 おそらくあの青年の事だろう。

 ヴァルデアも、研究者からきいたとかなんとか言ってた気がするし。


「あー、なるほどそういうことね。

 死んだ先代総長を実験体に使ったのか。

 んで、蘇らせた。

 生前の記憶がないのは、蘇った時のショックで消えたか、新しい人格を植え込んだか。

 そんなとこか」


「やはり、馬鹿でもないようだな」


「そりゃどーも」

 

 とりあえず、今日一日エールが必死に調べた時間が無駄になったなぁ。

 でも、だんだん分かってきたぞ。

 魔族の手先が人間の中に紛れている。

 そうでなければ、先代たちの依頼先での凶暴化、そして強化された魔物との遭遇率について説明がつかないからだ。


「そんなお前にもう一ついいことを教えてやろう。

 こいつらのリーダーはな、仲間のために生命を散らした」


「なんだ、人質にでもして一騎打ちでもしたのか??」


 ダンジョンでの、ヴァルデアとのやり取りを思い出しながら聞いてみた。


「御明答」


 ディードは言って、続けた。


 その約束のもと戦って、負けた。

 相手をしたのは俺ではないがな」


「あぁ、なるほどなるほど。

 仲間の命だけはそうして助けてやったのか。

 律儀だなぁ」


「我々だって約束くらいまもるさ。

 そういう存在だ」


「……茶番だろ。

 人間は魔族、つーより四天王には勝てない。

 これはお互いに周知の事実だ。

 初めから、目的は先代総長、いやあんたらで言うところの研究者の肉体だった。

 それを、なるべく円満に楽しみつつ手に入れたいっつー、一方的で傲慢な考えの上で実行した。

 違うか??」


「それは悪く取りすぎだ。

 たしかにコイツらのリーダーは、魔族に比べると弱かった。

 しかし、人間の中では強かったのもたしかだ。

 だからこそ、魔王軍としては人間の研究のために彼を欲した。

 些か他人を信じすぎる方ではあったとは思う。

 我々との約束も信じていた。

 我々の手先の者を、死ぬまで仲間だと信じていたからな。

 そして、真摯に四天王の一人と相対し、敗れた」


 なんとまぁ。

 色んな見方ができるなぁ。

 あのおばあちゃん店長からきいた話とは、印象が真逆だ。

 まぁ、人間なんてそういうもんだろうけど。

 たぶん、どっちも正解なんだろうな。

 あるいは、横暴ともとれる行いをして恨みを買わせていた誰かがいたのかもしれない。

 ここでその事を議論しても仕方ないので、そういうことにしておこう。


「なるほどね。

 貴重な話が聞けて良かった。

 それで、今度の狙いは俺だって事か」


「そういう事だ。

 あのダンジョンの闘技場には、行われた戦いを映像として記録できる魔法が設置されていた。

 俄には信じられないものだったが、これに魔王様は興味をもった。

 直々に御前に連れてこいと仰った」


「死体でもいいから、と??」


 俺は皮肉った。


「そうだ」


 ディードが頷く。


「で、今日、何がなんでも俺を連れていく、と??」


「……分かっているだろう。

 今のままじゃ俺には勝てないと。

 手加減していると」


「まぁな」


 何しろ、向こうは手の内をすべて見せてはいない。

 対して、こっちは色々情報を抜かれている。

 所持スキルは【身体強化】一個、魔力ゼロ。

 普通に考えたら勝てない。

 というより、俺はディードに遊ばれているに過ぎない。


「本気で来なければ、死ぬぞ?」


 とっとと、ヴァルデアの時のように全力で抗ってみせろ、そう言っているように聴こえた。


「そうだな」


 俺は相棒に触れる。

 相棒を包んでいる布を取り払う。

 そして、鞘から相棒を抜いて、鞘と一緒に構えた。


「建物を壊す前に、さっさとケリをつけてやるよ」


 そうして、通算二人目の四天王とのタイマンがはじまった。

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