第23話はい、論破
魔族の体の構造が人間と違っていたら、俺の案は使えない。
そのため、念の為に鑑定が出来るなら、しておいた方がいいと判断したのだ。
ビクターは場の空気に飲まれたのか、頷いた。
どうやらビクターは、鑑定を使えるらしい。
そうして、ビクターは気絶している優男魔族を鑑定した。
結果、体の構造は俺たち人間とそう変わらないことがわかった。
なので、盗賊団の首領を捕まえるときにも使用した技を、今回も使った。
首に、トンと手刀を入れ、体の自由を奪う。
喉も潰しておく。
これで詠唱魔法も、無詠唱魔法も使えないはずだ。
無詠唱魔法は、文字通り詠唱をしていない魔法のことをさす。
しかし、それ以外の動作を行っていないわけではない。
たとえば、印を組む、指を中空で走らせる。
そのための予備動作をする。
それを封じてしまえば、無詠唱魔法は使用できない。
だから、指一本動かせなくしてしまえば、理論上は無詠唱は使えないのだ。
喉を潰し、猿轡を噛ませる。
詠唱魔法と自殺対策である。
そうして準備を整えて、俺は、優男魔族をかつぎ上げた。
「コイツも重要な証人だからな。
連れてく」
「……俺の仲間を殺した連中の一人だ」
ようやっと、意識が現実に追いついてきたのか、ビクターが声を絞り出した。
「知ってる」
「殺させろ」
「ヤダ♡」
俺の返しに、ビクターはズカズカと俺に近づいて殴ってこようとする。
それを、ひょいっと避けて、軽く蹴飛ばした。
「救助にきた人間の指示には従え。
それとも、お前、死にたいの??」
「っ、クソクソクソ!!」
よし、これだけ元気なら大丈夫だな。
「今は俺の事刺そうとか思うなよ?
帰ったらいくらでも相手してやるから」
念の為、釘はさしておく。
おぅおぅ、殺気がすげぇなぁ。
でも、これなら早まったマネはしないだろ。
あ、そうだ。
「おい、念の為これ飲んどけ」
俺は回復アイテムで殿堂入りしているポーションを、ビクターへ投げて渡した。
とはいえ、低ランクのやつだけど。
飲まないよりはいいだろ。
基本、回復はエール頼りだったからなぁ。
こんなこともあろうかと準備しておいて良かった。
さて、ここからが問題だ。
どうやって、このダンジョンを出るか。
いや、まずはエールと合流しなければ。
なにしろ、把握できてるのは四十階層前後だ。
今いるのが何階層なのかもわからない。
けれど、実験施設として使っているならどこかに外へと続く近道や抜け道みたいなのがあってもいいはずだ。
いや、せめて転移装置くらいあるはずだ。
そうでないと一々、転移魔法を使って外へ行き来していることになる。
効率面で、それは考えにくいと思った。
「おい、大丈夫か?」
ビクターが怪我のせいか、体力の消耗が激しそうだ。
腹を抑えて苦しそうにしている。
洞くつをそのまま使用しているような場所だ。
あちこち土壁である。
その土壁を背もたれに、ビクターはズルズルと座り込んでしまう。
「…………」
俺は所持品を確認する。
低級ポーションが二本。
それと、手当のための道具が少し。
あ、この前買った塗り薬も入ってた。
たしか、傷全般には効きそうなこと、薬局の店員さん言ってたよな。
俺は優男魔族を肩から降ろす。
それから、痛みでぐったりしているビクターの手当を始めた。
腹に傷があるんだろーなー、とは思っていたが、想像以上の深手だった。
「お前、よく我慢してたな。
痛かったろ」
上着を脱がせ、消毒液をぶっかけて、薬を塗る。
悪態をつく元気すら無くなっているのか、ビクターは俺にされるがままになっている。
「……うるさい」
辛うじて、ビクターがそう呟いたのが聴こえた。
「ほら、もう一本ポーション飲んどけ」
とりあえず、少しでも体力を回復させなければならない。
手当が終わったら休憩だな。
程なくして、包帯も巻き終わる。
そして、俺はビクターから人一人分離れた位置に座った。
よし、休憩だ、休憩。
「……なんなんだよ、お前?」
ビクターがそう声をかけてきた。
「?」
「お前からすれば、俺なんて雑魚もいいところだろ。
しかも、毎回ウザ絡みする存在だ」
「え、自覚あったの?!
意外だわァ」
「大真面目に言ってんだ」
いつもの軽口で返してみるが、ビクターからはガチトーンの声が返ってきた。
「お前、クィンズさんの妹ちゃんに頼まれて【
で、テッペン取ろうとしてる」
「まぁなー」
「それなら、ウチみたいなクランが壊滅した方が好都合だろ。
俺を見捨てればそうなる。
なんで、そうしない?」
大真面目にビクターは聞いてきた。
俺は、そこで吹き出してしまった。
「あははは」
「なに笑ってるんだ」
「いや、あんまりにも辛気臭く言ってくるから、つい」
「…………」
「そうだなぁ、理由は主に二つある。
仕事だからってのが、ひとつ。
もう一つは、競い合う相手がいないとつまらねーだろ。
お前は【
俺の言葉に、ビクターは驚いているようだった。
「まぁ、たしかに?
お前は俺をぶん殴ることすらできてない。
けど、お前はお前のクランの構成員達から慕われてたろ。
クランの規模も大きい。
それを率いてる、お前は凄いやつだよ。
だから、潰れないでほしいってのが本音かな」
そこから、ビクターは俯いてしまう。
「でも、他の奴らは死んだ」
「お前は生きてる。
それに、文字通り全員を連れてきたわけじゃないだろ?」
おそらく、ビクターはアジトに何人か残しているはずだ。
戦闘系ギルドと行っても全員が全員、高ランクというわけではない。
この依頼に連れてこれなかった者もいるはずだ。
クランの総長とは、つまりケツ持ち係だ。
クランの構成員の命を預かっている。
それが失われるようなことがあれば、その責任は総長にある。
「いいか?
お前は生きてるんだ。
それと、これは純粋な質問なんだけど。
死んだヤツらは、お前のクランが消えてなくなることを願うのか?」
そこで、今度こそビクターは黙ってしまった。
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