第22話生存者見っけ

【数時間後】


「いい面構えになったじゃねーか、ビクター?」


 俺の再会の挨拶に、当のビクターはムスッとして返す。


「けっ、言ってろ」


 俺は、ビクターと檻の中にいた。

 ビクターの顔は、傷だらけの青あざだらけだった。

 しかし、手当はされているのか微かに消毒液の臭いがする。

 ふと見ると、檻の隅っこに木箱があり、その中に消毒液や包帯が入れられていた。

 しかし、刃物の類は入っていない。

 さて、俺がビクターと会えたのは、あの後さらにダンジョンの奥へ奥へと進んで、トラップに引っかかってしまった。

 そのトラップというのが、ダンジョンのあちこちに転移するものだったらしい。

 俺は、運がいいのか悪いのか、一気に最下層手前まで転移した。

 そのトラップのせいで、エール達と離れ離れになってしまったのだ。

 さて、転移した俺は魔族たちに囲まれた。

 というか、あれ絶対待ち構えてたから、ダンジョンに入った時点で行動把握されてたんだろうな。


 とりま、魔族に囲まれた俺は、暴れた。

 暴れて、暴れて、暴れまくった。

 そして、その中で一番偉そうなやつを捕まえて、拷問、じゃなかった顔の形を原型をなくすまで殴って、ビクターの事を聞き出した。

 なんでも生け捕りにして、実験に使っているとの事だった。

 じゃあ、そこまで案内しろと言って連れてきてもらったのだ。

 俺が顔の形を変えた魔族は、最後に腹パンして眠ってもらった。


「ほら、出るぞ。

 立てるか?」


 一応手を差し出してみる。

 すると、その手を拒否された。

 パシンっと叩かれ、払われる。


「余計なお世話だ」


 ビクターは俺から視線を外し、苦々しく言った。


「助けに来たのに、ご挨拶だなぁ」


「……お前、俺のクランの連中を見たか?」


 俺の軽口に、しかしビクターはそんなことを聞いてきた。


「そこは、会ったか、じゃねーの?」


「どうなんだ?」


「見たよ、食われてた」


 俺の返答に、ビクターは拳を地面に叩きつける。


「…………っくそ!!」


 俺は再度、檻の中を見る。

 そして、訊ねた。


「ところで、ランドルフはどうした?」


 ビクターの右腕である男の姿が見えない。

 他の連中と同様、もうこの世にいないのか。

 それとも、こことは別の場所にビクターと同じように檻の中に入れられているのか。

 それを確認するための質問だった。


「……死んだ」


 短く、ビクターは答えた。

 やっぱりか。

 俺が見た、あのデカ物が食べていたのは、彼だったんだな。


「俺、だけが、生き残った!!」


 悔しさを滲ませて、ビクターは叫ぶようにいった。

 その時だった。

 ぱちぱち、と拍手の音が聴こえてきた。


「いやぁ、話には聞いていましたが。

 想像以上に素晴らしい方が来てくれて嬉しいですよ。

 SSSランク冒険者、クラン潰しのウィン?」


 同時に、そんな言葉を投げられる。

 見れば、檻の外に魔族の優男が立っていた。

 三十階層で相手したデカ物よりも、人間の成人男性に近い大きさの魔族だ。

 歳の頃、二十代半ばくらいだろうか?

 背中にはやはり、魔族特有の蝙蝠のような翼が生えている。


「お仲間、いえ、ご友人を救いに来たのでしょう?

 あなた方人間、ヴァッ?!」


 優男の言葉を俺は途中で止めた。

 どうやって止めたかと言うと、檻、つーよりも鉄格子を蹴りつけて壊し、そのまま魔族へと倒したからだ。


 地面と鉄格子に、魔族の優男がサンドされる。

 その上に乗っかり、トランポリンよろしく何度かジャンプする。

 こいつの方がお偉いさんっぽいな。


「ちょっ、ま、まっべ、は、はなし、はなしをっ!!」


 という魔族の鳴き声みたいなのが聴こえたが、無視してぴょんぴょんはねる。

 その度に鉄格子が、ガッチャンガッチャンと音を立てた。

 やがて足元の魔族が静かになったので、俺はビクターを振り返る。


「よし、帰るぞ!」


「……俺はっ!」


 ビクターは、さらにゴネようとする。

 俺は、その先を続けさせるより早く、言葉を投げた。


「気絶させられてお姫様抱っこで冒険者ギルドに戻るのと、自分の足で立って歩いて戻るの、どっちがいい?」


「ふざけてんのか!?」


「いいや、真面目も真面目、大真面目。

 俺達はお前たちを助けに来た。

 なんならラインハルト達も来てるぞ、ハグれたけどな。

 アイツらとも合流しないとだなぁ」


「……っ」


「お前たちの救出、んで、ここで何が起きていたのか調べるのも仕事だった。

 ある程度の情報なら聞き出せたし、そこにお前の証言があれば、とりま依頼達成になるだろ」


 言いつつ、俺は踏みつけている鉄格子、その下で気絶している魔族を見た。

 コイツは俺の事を知っていた。

 そう、こいつはこう言ったのだ。

』と。

 つまり、誰かが俺の事をこいつに話したのだ。

 思い出されるのは、エールのお兄さんによく似たあの人物だろう。

 加えて、あの後俺の事を調べたに違いない。

 不名誉な通り名を、この魔族は知っていたからだ。


 魔族を捕らえて街に連れていくことも、考える。

 俺なら、それが出来るからだ。

 その方が情報を得られるだろう。

 しばし、考えて、俺はビクターを見た。

 そして、


「お前、【鑑定】使えるか?」


 そう訊いた。

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