第24話魔王軍四天王の一人とタイマンした話 前編

 少し休憩した後、俺たちは出発した。

 あちこち歩き回った末、俺たちはそこにたどり着いた。

 そこは、巨大な扉があった。


「なんだ、ここ?」


 俺の疑問に、ビクターが答える。

 その表情は、険しい。


「闘技場だ」


「闘技場?

 なにか戦わせたりすんの??」


「言っただろ、俺は強化した魔物と戦わせられてた。

 ここは、その場所だ」


 ふむふむ。

 でも、ここまで一本道だった。

 他に通路はなかったと思う。

 なら、


「入るしかないか」


 俺たちは、その扉を開け、中に入る。

 すると、なるほど闘技場とはよく言ったもので、魔物とビクターが戦わせられたのであろう円形の舞台が鎮座している。

 そして、その上に立っている存在に気づいた。

 それは、魔族だった。


「やっと来たか」


 その魔族は、敵意よりもむしろ楽しさを滲ませて、俺たちの前に立ち塞がった。

 呟かれた言葉から察するに、待ち伏せていたのだろう。

 ということは、俺たちの行動は全て筒抜けだったわけである。


「お前は??」


 そこそこの距離をとって、俺は訊ねた。


「魔王軍四天王が一人、ヴァルデア。

 お前のことは知ってるぞ?

 あの研究者に聞いたからな。

 それと、同胞が世話になったみたいだな」


 言いつつ、ヴァルデアは俺が抱えている優男魔族を見た。


「殺していないのか、意外だ」


 その言葉の色には、純粋な驚きが滲んでいた。

 俺の横で、ヴァルデアの名乗りにビクターが戦闘態勢に入る。

 その顔色は、真っ青だ。


「人間社会も色々あるんだよ。

 報告には彼が必要、みたいな?」


 そんなことを言った俺とビクターを、ヴァルデアは交互に見る。

 そして、俺に視線を合わせてこんなことを言ってきた。


「もしやとは考えていたが、お前戦闘狂の類か」


「アハハ、見抜かれちった」


 大当たりだ。

 ここが1番、俺が育ての親の母さんと似ているところだ。

 真っ青な顔をしているビクターとは正反対に、俺は王国に来て今までに無いほど満面な笑顔を浮かべているに違いない。

 鏡が無いから確認できないけど。

 俺は舞台の上に立つヴァルデアを見返した。

 そして、


「なぁ、アンタ四天王ってことは強いんだろ??

 噂じゃ世界一強い勇者の尻追っかけてて、こんな所には来ないって思ってたんだけど。

 なんでそんな強いやつがここにいる??」


 そんなことを聞いてみる。


「お前の行動理由と同じだ、といったら納得するか?

 戦闘狂ウィン?」


 やっぱり、名前知ってたか。

 別にいいけど。


「魔族の大幹部、四天王に名前を覚えてもらえるとは光栄だな」


 そんな俺たちのやり取りを、ビクターはさらに血の気の引いた顔で見ている。

 けれど、いつでも動けるよう体勢は崩していない。


「でも、ククク。

 そうか、同じ、同じか!!

 いいねぇ!!」


 多分、今の俺の顔を鏡に写したらきっと悪者が高笑いをあげる時のような、極悪な顔をしているに違いない。

 故郷にいた頃、特に強い相手と喧嘩する度に、妹の一人にそう言われ揶揄われたことがよくあったのだ。


「いいぜ?

 相手してくれよ、四天王ヴァルデア?」


 しかし、それに声を上げたのはビクターだった。


「お前、何言ってんだ?!

 相手はあの魔王軍の四天王だぞ?!

 下っ端の魔族とは訳が違うんだ!!」


 なんなら俺の前に出てきて、説得しようとする。

 思いとどまらせようとする。


「うん、わかってる。

 でも、見てみろよ、あいつ」


 俺はヴァルデアを視線で示す。

 ビクターが、恐る恐るそちらを振り返る。


「めちゃくちゃ強そうだろ?

 あんな奴とやり合えるなんて、そうそうない。

 いやぁ、ラッキーラッキー」


「強そう、じゃなくて強いんだ!!

 何がラッキーだ!?

 助けに来た癖に、ここで死ぬ気か?!」


「は?

 なんでそうなるんだよ??

 ま、いいや。

 ほい、これよろしく」


 ビクターと問答する気も無いので、俺は抱えていた優男を預ける。

 そして、舞台に飛び乗った。


「確認なんだが、ヴァルデア、テメェに勝てば俺たちをここから出してくれるのか?」


 俺の確認に、ヴァルデアは頷いた。

 そして、彼は指をパチンと鳴らす。

 すると、一見透明な檻が現れる。

 その中に、エール、ラインハルト、ミーアの姿があった。

 あ、捕まってたのねお前ら。

 怪我は、なさそうだな。

 透明な檻の中に捕まった三人は、必死にそこを叩いている。

 なにやら、こちらに向かって言っているが、生憎聞こえなかった。


「万が一、戦いを拒否した時の人質が無駄になったな」


「気遣いに泣けてくるなぁ。

 でも、そんなもの、俺には無用だ」


 けれど、ひとつわかった。

 こいつは、あの鬼の魔族とは違ってこちらのことを考える頭があるらしい。


「だろうな」


 そして、またパチンとヴァルデアは指を鳴らした。

 すると今度は、その檻の中にビクターの姿があった。

 あの優男魔族もいる。こちらはまだ、気絶していた。

 三人がそのことに驚く。


「これで気兼ねはなくなるだろ?

 ちなみにあの檻は、俺が全力を出しても壊れない程度の強度がある。

 そして、俺を倒せば消える」


 見透かされてるな。

 ま、いっか。


「サービスが良すぎないか?」


「全力でぶつかる為だ」


 言外に、


『お前本気出したことないだろ?出せや』


 と言われてしまった。

 どこまで調べてるんだ、ほんと。

 逆にそっちの方が怖いわ。

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