第14話スライム退治に来て、死者と出会う 後編

「お兄ちゃん!?」


エールが叫ぶ。

しかし、青年は首を傾げている。


「誰だ、お前?」


その言葉に、エールはショックを受けたように固まる。

しかし、すぐに、


「誰って、エールだよ!!

お兄ちゃん!」


なんて言って、青年へ近づいて行こうとする。

それを、俺は腕を横につき出して止めた。


「ウィンさん!?」


止めないでくれ、と声に滲んでいた。


「さすがにスライムけしかけてた奴は危ないから、近づかない方がいい」


「え?」


もう一度、俺は噛み砕いてエールに、現状わかっていることを伝える。


「あの男がスライム操ってるみたいなんだよ」


「そんなっ」


「それと、スライムには触れるな。

粘液で火傷したから、たぶん品種改良されてる」


俺の言葉を聞いた青年が、面白そうに俺を見た。

その青年を見つめ返して、俺は続けた。


「この村使って、新しく造ったスライムの実験でもしてんのか??」


ほぼ当てずっぽうだった。

たしかな証拠があったわけではない。

強いて言うなら、現状から考察して推測しただけだ。

けれど、当たっていたらしい。


「そこまで見抜くか!」


楽しそうに、青年は顔をゆがめて笑った。


「ますます生かしちゃおけないな」


なんて言った直後、スライムが襲いかかってきた。

それを、相棒を一閃させて一気に斬った。

こちらに向かってくる前に、スライム達がが地面に落ちる。


「へぇ、強いな。

お前こそ何者だ、チビ助?」


青年が俺に聞いてくる。


「ウィン。

SSSランク冒険者の、ウィンだ」


名乗って、一気に距離を詰め、青年の足へと刀を振るう。

ちっ、避けられた。


「SSSランク?!」


さすがに、青年も驚いたようだ。

EランクかせいぜいDランク冒険者だと思っていたに違いない。


「英雄クラスの冒険者をわざわざ派遣させた?!

まさか、冒険者ギルドにバレたのか??」


動揺のためか、ブツブツとそんなことを呟いている。


「……分が悪いか」


ジリジリと、青年を戦闘不能にする機会を窺っていた俺を見て、青年がそんなことを呟いた。

そして、青年は転移魔法陣を展開させる。

それを発動させ、消えてしまった。

逃げられたか。

俺は、エールを振り返った。


エールは、


「生きてた、お兄ちゃんが、生きてた!!」


なんて言いながら、大粒の涙を流していた。



その後、なんとかスライム五十匹を退治して、村を後にした。

そして、冒険者ギルドでこの村でのことを報告した。

ただし、この時はスライムを操っていた青年の容姿については伏せておいた。

余計な混乱を招かないためだ。

そして、翌日。

その報告内容を見たギルドマスターから、呼び出された。

青年の件がよくも悪くもショックだったのだろう、エールは無理やり休ませた。

青年のことも、悪い噂が立つかもしれないから誰にも話さないように、と念押ししておいた。


今頃はアジトで、昼寝してるか、のんびりお茶でも飲んでいることだろう。

とはいえ、さすがにギルドマスターには話した方がいいだろうと判断した。


「なるほど」


俺の報告を聞いて、なにやら難しそうにギルドマスターは考え込んだ。


「……俺は他所から来た人間なんで、二年前のことは詳しくないんですけど」


考え込んだギルドマスターに、俺はそう話しかけた。


「二年前も、魔物が凶暴化してたって聞きました」


「…………」


「そして、先代【神龍の巣シェンロン】が、依頼で初めて失敗をつけたとも聞きました。

ちょっと確認したいんですけど」


そこで、ギルドマスターから反応があった。


「確認?」


「えぇ、先代【神龍の巣シェンロン】は、それまで一度も仕事に失敗したことが無かったって、本当ですか??」


王国一のクランとしてテッペンをとった先代【神龍の巣シェンロン】について、この一ヶ月ほどその武勇伝などについて。

俺は、エールやラインハルト、ビクター、そして当時を知る冒険者から話を聞かされていた。

その度に出てくるのが、完璧に依頼をこなし、負け知らずだった、という話だ。

依頼もそれまで一度も失敗したことがなかったという。

それを聞いて、ずっと疑問だったのだ。

この一ヶ月のことを思い出す。

様々な依頼を受けて、基本達成させてきた。

けれど、やはりミスもあった。

達成出来なかった依頼もあった。


そう、人間はミスをするものなのだ。

失敗するものなのだ。


だというのに、先代達はかならず完璧に依頼をこなしていた。

変だな、と思ったのが正直なところだ。

エールの話では、怪我をして帰ってくることが度々あったということだった。

でも、それもよくよく聞けば新人ばかりで、彼のお兄さん達。

つまり、先代【神龍の巣シェンロン】を作った中心人物たちは、いつからか全く怪我をしなくなったのだという。

それだけ強くなった、とも考えられる。

けれど、なにかが俺の中で引っかかっていた。


「本当だ」


ギルドマスターは、簡潔に答えた。

マジかよ。


「これ言っちゃうと、怒られそうなんですけど」


俺は言葉を選びつつ、ギルドマスターに訊ねた。


「誰もそのことに、先代たちが依頼を失敗しないことに疑問をもたなかったんですか?」


「………」


沈黙が答えのようなものだった。

この話はこの辺にしといた方がいいだろう。

と、その前に。


「二年前と同様に魔物が凶暴化しつつあり、今回俺達が受けた依頼先ではスライムを使った実験が行われていた。

そして、その実験を行っていたのは、先代【神龍の巣シェンロン】の総長だった男に瓜二つな人物。

無関係には、とうてい思えないんですよねぇ」


ギルドマスターは俺を見た。

そして、苦虫を噛み潰したような顔をして言ってきた。


「お前、なんだか楽しそうだな、ウィン?」


おっと、ヤバい。

降りかかる火の粉で、遊ぶ気満々だったのがバレてしまった。

エールの事情を考えれば、不謹慎すぎて口にできないが、たしかにワクワクしていたのだ。

しかし、ここはすっとぼけておくのが正解だろう。


「そうですか??」


あー、早くトラブルやってこねぇかな。

凶暴化した魔物とも、戦いてぇ。

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