第13話スライム退治に来て、死者と出会う 前編

 畑に案内された。

 事前に説明された通り、そこは荒らされていた。

 あちこちに、食い荒らされた作物の残骸が散らばり、なんなら土も掘り返されている。


「……こりゃ酷い」


 思わず、呟いた。

 それくらいに酷い惨状だった。

 しかし、スライムの姿はない。


「人が襲われたのは、ここですか?」


 案内してくれた村長に訊ねる。


「あっちの方です」


 村長はそちらを指さす。

 しかし、動こうとはしなかった。

 怖いのだろう。

 カタカタと体が震えている。


「わかりました。

 ちょっと調べてみます。

 案内はここまででいいですよ」


 そう言って、俺は村長を家へと帰した。

 村長が指さした先へ、歩を進める。

 それは、畑の端っこだった。

 本来なら害獣避けでもある柵が壊されていた。


「…………」


 その壊された柵を見る。

 スライムや害獣が突進して壊した、というよりも、コレは……。

 俺は壊された柵に触れる。


「焦げてる」


 スライムが火の魔法を使ったのだろうか?

 そういう個体がスライムの中にいる、とは聞いたことがないけど。

 ここに来る前に、簡単にこの村周辺の魔物の分布も調べてみた。

 けれど、火の魔法を使える魔物がいる、という情報は無かった。

 この村はスライムの被害が出る度に、冒険者ギルドに依頼を出している言わば常連だった。

 だから、周辺の魔物の情報に関してはこまめに更新されていた。

 火魔法を操ることが出来る、新しい個体が出てきたということだろうか。


 続いて畑を見て、周囲を確認する。

 やはり、スライムの姿は無かった。

 今朝も被害者が出たということだった。

 ひょっとして、朝だけ出るのだろうか?

 疑問に思っていると、壊されていた柵の先。

 森の中から、落ちた枝や生えている草を踏み潰し、さらには木々が折れていくような音が聞こえてきた。

 音はこちらに向かっているようだ。


 柵を越えて、俺はその先を見据える。

 やがて、それは現れた。

 木々を踏み倒し、飲み込みつつ現れたのは、巨大なスライムだった。

 俺は、布で包み、肩に掛けていた相棒を取り出す。

 すらり、と鞘から相棒を抜いて、構えた。


 それは、ここらではあまり見ない武器――刀だ。


 スライムが止まる。

 そして、いきなりスライムは跳んだ。

 俺を押しつぶす気かな。

 なにしろ俺の真上に落ちてきたのだ。

 俺は刀を一閃させて、そのスライムを斬った。

 スライムは空中で、真っ二つに切り裂かれる。

 そして、ベタベタとした雨になって降り注いだ。

 ベタベタになるのは嫌なので、すぐにそこから離れる。

 しかし、少しだけ手についてしまった。

 すぐに、服で拭う。


「……デカいけど、普通だな」


 魔法も使っていなかった。

 一応、今回受けた依頼は討伐数も決められている。

 今回の討伐予定数は、五十匹だ。

 大きくても小さくてもまだ、一匹だ。

 先は長そうだ。


「待つか、探すか……っ痛てぇ?!」


 ふと見ると、先程スライムの死骸の一部が付いた場所が焼けただれていた。

 拭ったところも焼けている。


「妙な個体が出てきてるんだな」


 本来、スライムの粘液や死骸には、焼けただれさせるような効果はなかったはずが。

 むしろ、王都では逆にその成分が美容にいい、と分かってきていて、密かなブームになりつつあるとも聞いた。

 凶暴化と関係あるかはわからない。

 けれど、少なくとも容易に触れられない個体がいるのは確かだった。

 とりあえず、薬と包帯っと。

 俺は手早く、その傷の処置をする。


「あれま、殺されちゃってる」


 処置を終えたところで、そんな声がかかった。

 見ると、青年が立っていた。

 二十歳くらいの、エールと同じ銀色の髪と赤い瞳をした青年だった。

 色合いが似てるからか、なんとなく顔立ちもエールに似ている気がした。

 青年が俺を見て、口を開いた。


「スライム退治にきた、今回の冒険者生贄か」


 なにやら勝手に推測して納得している。


「でも、運が無いなぁお前。」


 なんて言って、魔族がパチンと指を鳴らした。

 それだけで、大量のスライムが出現した。


「ここに来たからには、生きて返せねぇんだわ」


 俺は刀を構え直して、問いかける。


「何者だ、あんた??」


 明らかにその辺の村人でないことはわかった。

 そして、言動からこのスライム騒動に、この青年が関わっていることも察せられた。

 捕まえた方が良さそうだな。

 青年は、俺の質問には答えなかった。

 もう一度、指を鳴らそうとした。

 瞬間、怪我人の処置が終わったのか、エールが駆けつけてきた。

 そして、青年を見るや叫んだ。


「お、お兄ちゃん?!」

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