第12話先代の話を振ってみたら、不穏だった
スライム討伐の依頼を受けてから、エールの顔は暗いままだ。
依頼主は、とある村。
そこに向かう道すがら、その話題を振ってみた。
移動に便利だからと購入した荷馬車、その手網を握る俺の横でエールはポソポソと語り始めた。
「お兄ちゃん達の時も同じことがあった、とラインハルトさんが言ってましたよね。
その通りなんです」
二年前も、同じように魔物の凶暴化などがあったらしい。
それも、国を問わずあちこちで。
今回はスライムの凶暴化が話題だが、ランク関係なく凶暴化していたらしい。
「そうなんだ」
「ウィンさんが住んでいた所は、そういったことはなかったんですか?」
「ほら、俺渡航者だから。
もともとこっちの人間じゃないんだよ。
ちなみに、俺が住んでたところじゃ、そういうことは無かったかなぁ。」
「あ、そっか。
ウィンさんが住んでたところではそういうことは、起こってなかったんですね」
エールは納得しつつ、続けた。
「二年前。
お兄ちゃん達が受けた、ドラゴン討伐の時も準備万端で仕事に向かいました。
誰一人、帰っては来ませんでしたけど」
その言葉に俺は引っかかりを覚えた。
疑問をそのままにしておくのもアレなので、聞いてみる。
「あー、ゴメン。
弁当のすみっこをつつくようなこと言っていいか?」
「はい、なんでしょう?」
「それは、生きて帰ってこなかったってことか?
それとも、文字通り、遺体すら無かったってことか?」
「はい?」
「前者なら、遺体を届けた誰かがいた、ということになるし。
後者なら、少なくとも君のお兄さん達の死を報告した、誰かがいたってことになる。
だれがエールにその事を伝えたのかなぁってさ」
「遺体は無かったです。
荷物番、というよりも雑用係として当時の構成員が一人同行していました、その方が命からがら逃げてきて伝えてくれました。
その方が言うには、ドラゴンのブレスに巻き込まれ、皆跡形もなく消えてしまったらしいです」
……本来なら、せいぜい丸焦げにするくらいの、ドラゴンのブレス。
攻撃力が跳ね上がっていた、ということだろうか。
それなら、跡形もなく消えた、というのもわからなくはない。
「その人は、一応無事だったんだ」
「はい。
事態の重さを知った冒険者ギルドのギルドマスターが、とりあえず情報収集のために、その現場に人を派遣してくれました。
そして、その証言は確かだったとわかりました」
先代【
でも、きっと悪意をもってこの話を広めた奴がいた気がする。
俺の知名度が上がって一週間したあたりに、規模は違うけど誹謗中傷が頻繁に起こっていた。
知名度が上がっただけで、それだ。
ましてや、先代は王国でテッペンをとったクラン。
羨望や憧れ、尊敬の念はたしかに向けられていたと思う。
でも、同じくらい僻みや嫉妬を買って、一方的に恨まれていたことも容易に想像できた。
「空っぽの棺をお墓に埋めました。
今でも、考えるんです。
お兄ちゃん達は本当に死んだのかなって、そう思う時もあるんです」
遺体がなかったというのは、言い換えれば死んだ証拠が何一つないとも言える。
ましてや、エールはその現場すら見ていない。
そうなると、お兄さん達が死んだことを信じられなくても仕方ないだろう。
「ま、それは仕方ないね。
ところで、いきなり魔物が凶暴化する原因ってなに?」
「わかっていないらしいです。
一説には、封印されている魔王の力が綻び始めている、なんて言われてます。
封印から漏れ出た、魔王の魔力の影響で凶暴化しているんじゃないかって話です」
「なるほどね」
村に着いた。
村長の家に行き、詳しい話を聞く。
「なんとまぁ、SSSランクの方が来られるとは」
村長は純粋に驚いていた。
とりあえず、スライムについての話を促す。
「でも、逆に良かったかもしれません」
なんて呟いて、村長は話し始めた。
というのも、畑を荒らすスライムを討伐する依頼ではあったものの、依頼を出して少しすると、スライム達が凶暴化して人を襲い始めたというのだ。
スライムというのは、畑を荒らすものの臆病でもあるので人が来たら逃げるというのが殆どだ。
だから、冒険者に頼んで退治してもらうというのが通例だった。
村人では、一匹二匹ならともかく大量のスライムを駆逐するのは困難なためである。
しかし、最近そのスライムが人を襲い始めたらしい。
被害者は、腕や足を食いちぎられたり、丸呑みにされたりしたらしい。
クマかヘビの魔物かと思ってしまった。
本来、そういった被害を出すのはそっち系の魔物だからだ。
「なるほど、想像以上に被害は深刻のようですね。
とりあえず、現場となっている畑へ案内してください」
俺が言ったあと、エールが提案した。
「あ!もし怪我の具合がよくない方がいたら、仰ってください。
私、回復魔法が使えるので力になれると思います」
村長の顔がぱあっと明るくなった。
「なんと!!
これは僥倖だ!」
聞けば、今朝も被害者が出たらしい。
村長はすぐに自分の妻を呼んで、被害者が出た家へ案内するよう指示を出した。
エールはそちらに向かう事になった。
俺が畑でスライム退治の係だ。
エールが村長の家から出ていく時、
「……どうか、気をつけてください」
滅多に言わないことを、俺に向かって口にした。
おいおい、そんな楽しいことの前フリしないでくれ。
ワクワクが止まらなくなるじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。