第11話そして、1ヶ月が経過した

【一ヶ月後】


 一ヶ月が経過した。

 この一ヶ月で順調に【神龍の巣シェンロン】の知名度が上がってきた。

 しかし、である。

 入会希望者は一向に増えなかった。

 何度かメンバー募集をかけてもらっても、不思議なほど集まらない。

 集まってくるのは、俺を倒して名をあげようとする連中ばかりだった。

 あれから、ラインハルトとも日を改めて喧嘩したが、俺の圧勝に終わった。

 そのため勧誘は無くなった。

 ビクターは、いまだに喧嘩を吹っかけてくる。

 こっちは本当に諦めが悪い。


「なんで来てくれないんだと思います??」


 俺は、すっかり馴染みになってしまった冒険者ギルドの受付さんに相談した。


「そうですねぇ。

 んー、あの言い難いこと言ってもいいですか??」


 受付さんが、そう前置きする。


「いいですよ。

 改善点があればどんどん反映させていきたいので」


「ウィン君、自分がどんな風に噂されてるか知ってますか??」


「へ?」


 ちょっと違う方向からの言葉に、俺は間抜けな声を出す。

 受付さんは指折り数えて、ここ一ヶ月のうちに付けられた俺の通り名を羅列していく。


「破壊神の申し子。災厄を振り撒く者。歩く古代文明の殺戮兵器。

 まぁ、色々言われてますけど一番有名なのはこれですね。

 人呼んで、【クラン潰しのウィン】」


 待て待て待て、なんか兵器扱いされてる?!


「とにかく、とっても怖い人ってことで有名になっちゃってるんですよ」


「とっても、不名誉な通り名がついてる」


「まぁでも、最短も最短でSSSランクになっちゃった化け物ですからね、ウィン君は」


「本人の前でバケモノって」


「ホントのことじゃないですか」


 そう、この一ヶ月。

 俺が所属し、なんなら総長をつとめてるクランの知名度アップに励んだ結果。

 色々あって、つい先日、俺の冒険者ランクがSSSランクにまで上がったのだった。

 ちなみにエールはAランクに上がった。

 お陰で受けられる依頼の幅が増えた。


「一週間で最高難易度の魔物討伐五件も終わらせれば、そりゃSSSランクにもなりますよね」


 受付さんが、苦笑しながら言った。

 そう、受けられる依頼が一気に増えたのだ。

 さらにSランクになったことに浮かれて、最高難易度の魔物退治受けまくった結果でもあった。

 クランとして受けていたので、【神龍の巣シェンロン】のランクもSランクにまで上がった。

 ちなみについさっき、たまたま顔を合わせたギルドマスターには、脅威のスピードすぎるからやっかみ回避のためにも大人しくしろと言われた。

 じゃあ、昇級させなきゃいいのにと思った。

 思っただけだけど。


「闇討ちされたりしてません?」


 一応の気遣いなのだろう。

 やっかみ僻みでトラブルになっていないか、受付さんが聞いてくる。


「負けてないんで、大丈夫です」


 実際、闇討ちは多い。

 救いは、俺の知名度が上がってるからかエールには被害が及んでいない事くらいだろう。

 それでも、念の為に喧嘩技と護身術は教えたけど。


「闇討ちされてるんですね。

 あと、そんな楽しそうに言われると、反応に困るんですけど」


 呆れられた。

 と、そこに、


「ウィンさーん!次の依頼、これにしましょう!」


 エールが選んだ依頼書を手にやってきた。

 俺は、その依頼書を見る。

 大量発生したスライム退治だ。

 誰も受けなかったやつらしい。

 難易度はDランクだ。

 本来ならSSSランクが受ける依頼ではない。

 けれど、【神龍の巣シェンロン】の基本方針は今のところ変わっていない。

 先代のように、どんな依頼でも受けている。

 だからだろう、これと似たような依頼を受けて、依頼主にあうととても驚かれる。


「またそんな依頼を受けるんですか?」


 俺たちが依頼について話していると、ラインハルトが横から依頼書を覗き込んで、さらに口を挟んできた。


「……俺たち【神龍の巣シェンロン】は難易度関係なく仕事を受けると決めてるんだよ。

 それに、どうせ誰も受けていなかっただろ」


 Eランク冒険者でも受けられるやつだ。

 受ける人がいるなら譲るが、そんな冒険者はいまのところいなかった。


「他にも、SSSランクにとってふさわしい依頼があるでしょうに……」


 ラインハルトが受けるわけじゃないのに、何故か不満げだった。


「別にいいだろ。

 つーか、お前は仕事探さなくていいのかよ?」


「今終えてきたばかりです」


 ラインハルトも、そして今はいないビクターも最近はこのギルドをよく利用するようになっていた。


「そうなんか、お疲れさん」


「えぇ、疲れましたよ。

 あ、そういえば、依頼先でちょっと変な話を聞いたんですけど」


「変な話?」


「えぇ、なんでも魔物が凶暴化してるとか」


 言って、ラインハルトは俺たちが受けようとしている依頼書を見た。


「それこそ低級のスライムですら、Aランク冒険者が手こずるほどの凶暴性と強さを持つ個体がいるらしいです。

 数も増えてるとか」


 そこで、ラインハルトは一度言葉を切って、何故かエールを見た。

 俺もつられてエールを見る。

 エールは顔を真っ青にしていた。

 しかし、構わずラインハルトは続ける。


「先代【神龍の巣シェンロン】の総長や幹部たちが受け、唯一失敗した依頼の時も、これと同じ現象が起きていました。

 あの時だって、誰もが先代、クィンズさんたちの成功を信じていたんです。

 成功して当たり前だと思っていた。

 でも、失敗した。

 ただの偶然だとは思いますが、念の為耳に入れておこうと思いまして」


 なるほど。

 とりあえず、頭の片隅にでも置いておこう。

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