第15話傷口見て、めっちゃ楽しそうにする人って一定数いるよね

 結局、エールの兄に似た人物が関わっていることは伏せつつ、今回の件は冒険者達に共有されることとなった。

 ギルドマスターへ報告した後の帰り道で、俺はあの村で負傷してからずっと巻き続けている包帯へ視線を落とした。

 そこには、エールに回復魔法をかけてもらい、痛みこそ消えたものの、いまだ回復しない、むしろずっとジュクジュクとした生々しい、焼けただれた傷があった。


「………厄介だなぁ」


 この傷のことも、ギルドマスターには報告しておいた。

 帰ってからエールにも伝えよう。

 なにしろ、エールの回復魔法でも治せなかったのだ。

 他の村人の怪我は、回復魔法が効いたらしい。

 ということは、あの時青年が従わせていたスライムと、村人を襲わせていたスライムは別々ということだ。

 ここから考えられる答えは、様々な攻撃手段を持ったスライムを開発し、作り上げているかもしれないということだ。

 報連相は大事だ。

 だから、忘れずに伝えよう。

 幸いなのは、この傷が呪いではないということだろう。

 これで呪いがかけられていたら始末が悪かった。


「帰る前に薬局寄っていくか」


 ギルドマスターに、勧められたこともあって薬局に向かう。

 回復魔法でも治らないなら、薬に頼るのが一番だからだ。

 薬局は混んでいた。

 どうも場合によっては、診察もしているらしい。

 それで薬を処方するらしい。

 俺は並んで順番を待つ。

 やがて、俺の番になった。

 店員さんへ火傷と事情を説明する、傷口を見せてくれと言われた。

 とくに拒む理由も無かったので、包帯をとって火傷を見せる。


「ありゃまぁ、グジュグジュだね」


 どこか楽しそうに、薬局の店員さんに言われる。

 消毒液と塗り薬を出してもらった。

 ついでに包帯とかガーゼも購入する。

 店先で一応薬を塗って、もう一度包帯を巻き直した。

 薬を塗って、すぐに煙が出て怪我が治り始めたのには驚いた。

 普通、煙なんて出ないだろ。

 しかし、なるほどこの薬があるならあのスライムの被害が今後出たとしても対処出来るな。


「この辺じゃ、昔ながらの塗り薬だよ。

 あかぎれ、切り傷、すり傷、火傷に凍瘡は、百合マークの塗り薬ってね」


 塗り薬の容器に描かれてるの、百合なんだ。


「薬、少なくなったらまた買いにきな」


「あ、はい。

 ありがとうございました」


 店員さんに見送られ、店を出た。

 そのままアジトに向かう。


 アジトに着くと、来客がいた。

 というか、アジトの周囲を【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】の連中が取り囲んでいた。

 荷馬車が三台もある。

 これに乗って来たのか。

 もしや、カチコミか?


 そう思ったが、どうも違うようだ。

 ちぇっ。


堕悪皇帝ブラック・エンペラー】の構成員の1人が俺に気づいて、総長のビクターを呼んだ。


「おい、ツラ貸せや」


 メンチ切りながら言われる。

 よし、これはタイマンだな。

 受けてたつぞ。

 と思ってたら、本当にただ用事があって来たらしい。

 話を聞くと、どうやら俺が薬局に寄っている間にビクター達【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】のところにも、昨日の件について情報が伝わったらしかった。

 その時のことを俺の口から聞きたかったらしい。

 うん、少なくともメンチ切りながら訊ねることじゃないだろ。


「なるほどな」


 ほぼ、冒険者ギルドで報告したのと同じ内容のことを説明した。


「……それじゃ、クィンズさんの妹ちゃんが寝込んでるのも、それが原因か?」


 それも伝わってるのか。


「疲れが出たんだよ」


 そう言うだけに留めておいた。


「それで、お前も怪我したって話だったが、やっぱ先代には及ばないか」


 挑発混じりに言われたが、これに関してはその通りなので素直に認めておく。


「先代総長みたいな、失敗皆無とか無理無理。

 俺、完璧超人じゃなくてただの人だし?」


 そのただの人に負けたのはテメェだけどな、と言外に含ませる。

 それに気づいて、ビクターがイラッとしたのがわかった。


「それはそうと、俺たちが遭遇した例の男がスライムを色々弄っているのはたしかだ。

 この怪我は、そのスライムの粘液がかかって出来た。

 俺が言えるのは、スライムだからと油断するなってことくらいだな」


 俺の言葉に、ビクターは目をパチクリさせる。


「お前、思ってたより良い奴だな」


 なんてことを言ってきたので、俺は胸を張って答えた。


「なんだ、今気づいたのか?

 俺って聖人君子なんだぞ。

 崇め奉ってもいいんだぞ」


 俺の言葉に、ビクターはまたイラッとしたようだった。


「調子乗んな!」


 拳がとんで来た。

 避けたけど。


「けど、それ聞きに来るだけなのに、なんでまたこんな大勢で来たんだよ?

 カチコミなら受けてたつけどな」


「あ?!」


 ビクターが感情的に声を上げた時だ。

 ビクターの補佐役であり、【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】の副総長でもある男が出てきて説明してくれた。

 彼の名前は、ランドルフという。


「違います違います。

 総長も頭が単純なの、自覚してください。

 いっつも、ウィンさんに挑発されてるじゃないですか」


 ランドルフも中々毒を吐く人物だ。


「違う?」


 俺は聞き返した。


「これから、【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】総出でダンジョン攻略に行くんですよ。

 でも、その矢先にウィンさんたちの情報が流れてきて」


 それで、情報収集のためにここまで来たらしい。


「なるほどね」


 彼らにとっても、二年前のことはまだ生々しい記憶として残っているらしかった。

 だからこそ、慎重に情報を集めることも欠かさないのだという。

 とりあえず、本当に用事はそれだけだったようで、彼らはダンジョン攻略に向かっていった。


 そんな【堕悪皇帝ブラック・エンペラー】が、攻略しにいったダンジョンにて壊滅したと俺が知るのは、これより数日後のことだった。

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