番外編:猛獣になった第二王子(15)

「本当に猛獣ね」


聞き覚えがある。

屋敷にいた時に耳にした声だ。




そこにいたのはミューズの義妹だ、ユミルもいる。




招待状、出したか?

そもそも二人だけとはおかしい、普通なら親込みで呼ぶだろう。


マオの顔を見るが動揺はない。


無理矢理会場に入ったわけではなさそうだから、ティタンは様子を見る事にした。








「そんな大きい獣を手懐けるなんて、さすがお義姉さまですわ。野性味あふれてますわね」


なんて不遜な言葉を言うんだ。

ルドとライカの手は既に剣に伸びてるし。


「…おやめなさい。この方は王族の大切なご家族ですよ。それ以上の言葉は慎みなさい」

ミューズは義妹の言葉を窘め、ユミルを見た。


(やはり、未練があるのか?!)

焦ってしまう。


見目で言えば、ユミルはカッコいい。



金の髪に青い瞳で王子様然としたスタイルだ。




「君も招待されてたんだね。猛獣のお世話係でこういう場にはもう来ないかと思っていたよ」


ミューズがここにいるのが不思議なのだろう。

婚約者の発表はまだされていないから、勘違いをしているようだ。


(招待じゃない、主役だ!こんなに綺麗なんだから、わかるだろうが!!)


別な事でティタンは怒ってしまった。





ミューズが着ているドレスの色は、第二王子ティタンを示すものだ。

気づきそうなものだが、二人は頭にないのだろう。




頭にあったのならば、王家の付き人がこれだけいる中話しかけにも来ないかと、二人の鈍さに呆れてしまう。


「この前は助けにいこうと獣の屋敷に向かったら君に会う前に追い返されてしまってね。本当に猛獣のお世話係になるなんて思ってもいなかったよ。

たった一人のカレンの姉だ。その後も助けようと思ったら王族に止められていた。心配だったよ、監禁されて痩せたのではないか?」


ミューズの髪も肌も実家にいた頃より潤っている。見ればわかりそうだが、この男はミューズの事など見ていなかったのであろう。


そんな男に心配などされたくない。

ティタンは誰に何を言われようと、追い返すと決意した。



「ユミル様までそのような事を…それ以上は不敬罪に当たるし、私は監禁などされていないわ。あなた達とは縁を切ったのよ、もう関わらないで」


「そうはいかない。君がいないと領地が治められないんだ」


ユミルは困った表情をしている。


「あれだけ奮闘して立て直したけれど、君がいないことで今までもらっていた援助が何故か入らなくなってしまった。そして家督を譲り受けようと国に申請したら、お義父上は公爵代理だと言われて僕は爵位を継げないらしい」


エリックが何とかすると言ってたのはこの事か。

ミューズがいないと立ち回れないようになっているのは、いい事だ。


こいつらは、ミューズを追い出した報いを受けるべきなのだから。


寧ろこんな制裁は生温い。

もっと追い立ててやってもいいくらいだ。


「代理として領地にはいられるけれど、近々別な者が領主になると言われてしまったし、それもこれも君が勝手に猛獣のお世話係に志願してスフォリア家を出ていくから」

はぁとため息をついている。


ミューズは勝手に出て行ってないし、むしろ追い出されたのだから、勘違いも甚だしい。


責任転嫁が凄すぎて、頭の血管が切れそうだ。



「今すぐ戻ってきて僕と婚姻を結んで欲しい。大丈夫、形だけだから。その後はカレンと共に頑張ってスフォリア領を治めていくよ」

「仕事も与えてあげるわ、お義姉さまが今まで勉強してきたものが無駄なく使えるわよ」


ティタンの頭の中で、何かが爆ぜた。



もう充分話は聞いてやった。


こいつらはミューズを道具か物だと思ってるのか。

巫山戯た事しか言わない奴らだな。



そんな言葉受け入れないし、もちろん突っぱねる。

今すぐここから追い出してやるが、

、それだけでは許さない。




そのまま、皆の見えないところで八つ裂きにしてやろう。



牙を剥き、低い唸り声が喉の奥から漏れ出した。


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