番外編:猛獣になった第二王子(14)

いよいよ婚約パーティの開催は明日だ。




ティタンはガチガチに緊張していた。




もちろん喜ばしいのはある。

しかし、もし失敗したら、ミューズは自分を愛していないという事にもなる。





怖い。


本心を知りたい気持ちと、知りたくない気持ちがない混ぜになる。






そして早着替えの本番だ。





今までのライカの努力を無駄にしないようにせねば。


「…大丈夫です。ティタン様の為なら、耐えられます」


と練習のために、死人のような顔で侍女達の前で全裸になってくれた彼を思うと、失敗など出来ない。


あんな屈辱はなかなかない。





失敗したら、自分も精神的に死ぬ。

皆の前で裸を晒すなど絶対したくない!






ミューズのもとへティタンの家族が来た。


城内にはいたものの、パーティの準備や仕事が忙しく、改めての話となった。


いよいよティタンが人間に戻れるということで、父は喜び、母は嬉し泣きをした。

義姉はミューズが家族になることも喜んでくれている。


兄は全く泣かず、寧ろお付きの従者がボロボロ泣いていた。


「ミューズ嬢と共にお前も幸せになるんだよ」

と兄は声を掛けてくれる。


優しく温かみのある声でミューズの方が泣いてしまうが、ティタンは明日の恥ずかしい演出について忘れてない。


少しだけ恨みを込めて、睨んでしまった。







式の前だからと、ティタンはたてがみなどを整えてもらった。


思えばお風呂は入れさせてもらっていたが、切るのは初めてだ。




戻ると髪型とかに影響するのだろうか?


もともと短い髪型だったけど、不揃いなのは嫌だな。


だが威厳があるくらいに残してもらえたのはホッとする。



これがどう影響するのかは、想像もつかないのだが。





そんな心配を余所にミューズが寝る前に丁寧にブラッシングしてくれた。


気に入ってもらえてるようで、鼻歌交じりに梳いてくれる。


(ミューズが喜ぶならいいか)

と、隣で眠りについた。





獣姿での最後の夜だ。


明日からは別々になってしまうので寂しいが、人間に戻らなければならないから仕方がない。




またいつか二人で寝られるだろうとその幸せを思って、眠りについた。








当日、ミューズはティタンの髪色である薄紫色のドレスと、瞳の色黄緑の装飾品を纏った。


ドレスには金糸で刺繍がされており、ところどころダイヤモンドが散りばめられている。

ティタンもミューズが刺繍してくれたスカーフを付けてもらえた。


(こんなに素敵なプレゼントは嬉しい!ずっと大事にするぞ)

パーティに合わせて新たな物を作ってくれてたなんて。

人間に戻ったらお返しをしよう、何がいいかなと、今からワクワクだ。





浮かれたティタンと緊張した面持ちのミューズが入場した。


猛獣姿のティタンを見て、明らかなる動揺が会場に走ったが、事前に知らせていた手紙のおかげで、思った以上に騒ぎにはならない。





ティタンはそんな事を全く気にせず、誇らしげにミューズの隣を歩いていく。


(俺の妻は美しいし、このスカーフも妻からの贈り物だ。凄いだろ)


心のこもったミューズからの贈り物を貰ってから、心の中では妻と呼ぶようになった。



いまだ婚約前であるが。





王族の到着を待ちながら、ティとミューズは軽く食事を摘む。


主役であるはずの二人がわざわざ一般客とともに入場したのは、事前にティに慣れてもらうためだ。


近くにはチェルシーやマオ、ルドもライカも控えている。


(パーティは好きではないが、ミューズと一緒なら楽しい)


人間に戻ったらエスコートもして、ダンスも一緒に踊ろう。

友人にも会わせたいし、ミューズに愛を囁きたい。


うっとりとミューズを見つめていたら、聞き覚えのある耳障りな声が聞こえた。






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