番外編:猛獣になった第二王子(13)

倒れてしまったティタンをルドとライカが部屋に運ぶ。

やや恥ずかしさで体が火照っていた。

「大丈夫ですか?」

ルドとライカに目を覗き込まれるが、恥ずかしさしか今はない。

『少しやすめば大丈夫』




ティタンはそれだけ伝え、深呼吸しながらベッドに横になった。


皆に心配をかけているが、今はミューズからの告白の余韻に浸りたかった。


幸せすぎる。





「何か飲み物をもらってきますので、ゆっくりとしてくださいね」

ミューズがそう言ってルドと共に席を外す。


優しさが染みる。

自分の妻になる人はどこまでも優しいと感動した。





ライカが少しだけドアを開け、主の様子を見た。

「いかなる姿でもお仕えしようと思っていましたが、ティタン様が幸せそうで何よりです。ずっとお側に仕えさせてくださいね」

ライカもこんな姿になったティタンに対していつも敬意を持って接してくれる。


早く元に戻って、ボーナスをあげなくては。






急にライカの怒鳴り声が聞こえた。

「マオ!貴様よくもティタン様で遊んでくれたな!」

マオが来た。

犬猿な仲の二人だが、願わくば仲良くしてもらいたい。


マオはティタンをからかう癖があるので、ティタンを尊敬しているライカにとってその点が気に入らないようだ。




「初心なティタン様の心を弄ぶ女狐め。貴様も兄と同類だな」

その言葉を聞いて、マオがわざとミューズへとあのように質問したのかと気がついた。

ミューズの本心が聞けたのは良かったが、段階を踏んで知りたかった。


ティがティタンだと知った時にミューズがどのような反応をするか、申し訳なく思う。


自分だったら恥ずかしさで憤死確定だ。



「ふふ、そんな僕らを重宝してくださっているエリック様やティタン様には感謝してるのです」

根は悪い子ではないので、突き放すことはしない。

仕事は早いし。



マオが来たのは婚約の話のためだと言う。


ミューズがいない内にと廊下で見張りをしながら、こそこそ話が始まった。

マオの拡声魔法でその内容は室内にいるティタンにも伝えられる。


(先程エリック様より婚約の手筈は整ったとの話がきたです。ティタン様の快気祝いと婚約パーティをするとの話でしたので、近日中にここを経つ予定なのです)

効率重視な兄らしい計らいだ。


まとめて全てを発表しようというのだろう。




(では急いでミューズ様に真実を伝えなくては間に合わないのでは?本当に元の姿に戻るのか怪しい)

そこはティタンも気になっていた。


呪いをかけた者が本当に真実を言ってくれたのが、疑わしくないわけではない。

万が一戻らなかったら、皆の前でただ獣の姿を晒すだけだ。


(兄の拷問はとても恐ろしいのです。普通のものが耐えられるはずはないのです)

だから嘘ではないはずだと、マオは言った。


(それで、いつ呪いの話やティタン様の事をミューズ様に伝えるのだ?)

(式の最中です)

「はっ?!」

ライカの驚く声をマオは咎める。

「声が大きいのです」



ティタンも吃驚した。

さすがに式前くらいには伝えて、心の準備をさせるだろうと思っていたから。



(事前に姿を見た令嬢はおそらく欠席するかもですが、第二王子の婚約パーティには多くの者が参加するです。そこでミューズ様の愛の力で呪いを解くのです)


猛獣の姿で何も知らないミューズをエスコートするのか。

せめて人間の姿で、堂々とエスコートしたいと思うのは贅沢だろうか。


(いや待て。そこで呪いを解いたらティタン様の服は)

(ありません)



(はあぁぁぁ?!)


さすがのティタンもこれは聞き捨てなら泣いと抗議しようとした。


「却下だ!」

その前にライカが代わりに怒ってくれている。



(嘘です。幻惑魔法で時間を稼ぎ、メイド総出で早着替えさせます。ライカはその練習台になってもらうです)

(…全裸で?)

(もちろん)

「!!!」


とんでもない話に、ティタンは真っ青になる。

式前に戻してもらえればそんな練習もしなくていいし、ミューズにいつまでも秘密にしなくて済むし、なぜこんなにいろいろなことをしなくてはならないのか。


(発案はエリック様です。早着替えの練習台は僕が決めました。ルドよりライカの方がちょっとだけティタン様に体型が近いです)


兄の提案だった。

(兄上ーーーー!!)

心の中で絶叫した。


何という演出と考えをするのか。

一筋縄では解呪も許可してくれないとは。

ティタンが呪いを受けた時に流してくれた涙と、一刻も早く呪いを解くといった約束はどこへ行ったのか。



「くそが…」

ライカの苦悩の声。

兄のせいで巻き込んでしまって、本当に申し訳ない。



「そういう事でティタン様もよろしくお願いなのです。ミューズ様が戻ってくるので、僕は失礼するです」


(ライカ、ごめんな)

あとでしっかり謝ることと、必ずボーナスあげようと心で決めておいた。



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