番外編:猛獣になった第二王子(12)

マオの協力を得て、ミューズの想いを改めて聞いてもらった。


「第二王子のティタン様ですか?もちろん存じておりますよ、私の社交界デビューの際、お外の警護をしていたところ見惚れていたら、色々なお話をして頂きました」

お恥ずかしい、とほんのり頬を赤らめ、思い出しているようだ。



「とても優しくお気遣い頂きました」


ティタンとの思い出を語るミューズは嬉しそうだった。


自分の事を知っていた事を、そして意識してもらってたなんてと、感動で言葉も出ない。

このような奇跡があるのだろうか。





嬉しそうに話すミューズに対してマオは鎮痛な表情をしてみせた。


「そのティタン様なのですが、現在病気にて療養されているのです」


初耳だとミューズは驚いていた。


そのような情報はミューズに言う必要がなかったので、伝えていない。

そもそもティタンはここにいるし。



「そんな忙しい時に私のために時間を割いて頂いていたなんて、本当に申し訳ないです。ティ様のお世話以外にも何かお返しできることがあればいいのですが…」


おろおろとしてしまうミューズにティタンが安心させようと頬を寄せた。


これ以上返して貰うことなどない。

ミューズは十分過ぎるくらいに力になってくれている。



「もしやティ様はティタン様の友達なのでしょうか?それならば王族の方がとても大事にしている理由がわかります。きちんと世話出来る方を必死に探していたのもティタン様の為になりますものね」


突然ぎゅうっと強く抱きしめられた。


友達どころか、ティタン本人だ。


いつもの軽いハグと違い、密着度が高い為、ドキドキが止まらない。


マオは神妙な表情をしているが、口元を隠している。

ニヤケは押さえられないようだ。



「安心してください、ティ様。きっとティタン様は迎えに来ます。私が知っているあの方はとても誠実で実直で真面目な方でした。けしてあなたを一人にしませんし、私もついております。だから元気を出してください」

優しく声をかけられ、励まされる。


健気な言葉掛けはティのことを親身に考えてくれてるからだ。

何より自分を一人にしないと言ってくれている。


もはやプロポーズの言葉としか思えない。


(もう無理!マオ助けろ!!)

情緒がもたない。


ティタンのそんな目線を受け、マオは助け舟をだそうかと思ったが、面白いので止めた。


「ティタン様のことはお好きですか?」

寧ろよりティタンの心をかき乱そうと、わざとミューズにそんな質問をした。

「そうですね、お慕いしております。私があったどの殿方よりも素晴らしいお方です」

本人の前では恥ずかしくて言えませんが、とミューズは俯いてしまう。


人間だった頃の自分にも好意を寄せていた事を初めて知って、ティタンは天にも昇る気持ちだった。

それ故、この密着はヤバい。

生殺しだ。



心臓がドキドキし過ぎで痛くなってきた。


「では婚約を結ぶ手続きをします。ミューズ様は間もなく成人とされる十八歳ですね?決定権も大丈夫なはずです」

「えっ?」

ミューズの戸惑いを無視し、マオはルドを呼んで、婚約の手続きをお願いする。

「今すぐ準備させて頂きます。ミューズ様、ティタン様をよろしくお願いします」



ルドもライカも泣いていた。


ティタンが元に戻れる日がついに来るのだから。


「待ってください、あの、ティタン様に婚約者は…」


「いません。ずっと片思いの方がいたのです」



(ああああー!!)


恥ずかしさでティタンは逃げ出したくなる。


なぜマオからその話をされなければならないのか。

せめて自分から伝えたかった。


ティタンがずっと想っていたのはミューズだ。

しかしあの頃のミューズには婚約者となるべくユミルが既にいた。


それを押し退け、ミューズに告白出来るほど、ティタンは自分に自信がなかった。


もしもミューズがユミルに恋心を抱いていたとしたら、それを引き裂いてしまうかもしれない。

仮にも王族からの申し出となると、普通に断る事は出来ないだろうから。


ミューズを悲しませてまで彼女を手に入れたい訳では無い。

だからティタンは恋心を封印した。





「その方が結婚したら諦められるだろうと、それまでは特定の婚約者を持つのは相手に失礼だと断っていのです。第二王子なので、国内外問わず話はあったのですが」

「そうでしたか…」



しかし、そんな中で呪われてしまった。


これはいい加減諦めろということなのだと、恋心を捨て去り、気持ちの切り替えを行ない始めた。




せめて人間には戻りたかった。



「しかし婚約者を探すどころか病気になってしまい、下手したら治らないかもしれないと言われてしまいました。求婚してきた令嬢に現状を伝えると、皆にお断りされたのです。実際にお目通り頂いた令嬢達も皆逃げてしまったのです」


一縷の望みにかけたが、ティタンは傷つくばかりであった。


中にはティがティタンだと言っても信じてもらえず、叫び声と罵声を浴びせられてしまった。


女性不信に陥る一歩手前だった。


そんな時に恋心を抱いていたミューズに会え、しかも受け入れてくれた。




「ティタン様の容態は?お目通り出来るくらいなのですか?」

「会うことは出来るのです。ただ容姿が変わってしまったため、多くの令嬢は受け入れられなかったみたいなのです。ミューズ様は大丈夫だと思いますが」


平気で触れたのは寧ろミューズくらいだ。


「ティタン様はとても心優しい方でしたもの、多少容姿が変わったからといって魅力が減るわけではないと思います。人の見た目でどうこう言うなんてことは致しません。ぜひ、私もティタン様に会いにいこうと思います」


頼もしい言葉だ。


もう今すぐにでも名乗り出たい。

人間の姿で好きだとはっきり伝えたい。


嬉しさと胸の高鳴りで過呼吸になりそうだ。

「だそうです。どうします?」

マオは息も絶え絶えなティタンをぽんぽんと叩いた。


そんなぞんざいな扱いをされても今のティタンは抗議すら出来ない。


ミューズが眩しすぎて、呼吸がままならない。

自分の呪いを解ける唯一の女性であり、婚約も驚きつつも拒否をしなかった。

優しい彼女がティタンの伴侶となってくれるなんてと、興奮しすぎしまう。


「ティ様、私と一緒にティタン様のもとに行きましょう。二人で会って元気になってもらいましょう」

ニッコリ笑顔のミューズに、ティタンは『うん』とだけ伝えて倒れてしまった。

もはやキャパオーバーだ。




ティタンが人間の姿に戻れる算段がついたので、今後についての話し合いがミューズには内緒で行われていった。

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