番外編:猛獣になった第二王子③
ティタンが目を覚ました後、少ししてマオがエリックを呼んで来た。
「すまない…」
ベッドの上で上体を起こしているティタンの手、いや前足に手を置き、エリックは謝り続けていた。
苦悶の表情だ。
ティタンはぶんぶんと首を横に振り、エリックに大丈夫だと伝えたかった。
(兄上の方が辛そうじゃないか)
「くぅん…」
必死で声を出すが、それくらいしか出なかった。
「ティタン様は怒ってないですよ、エリック様が悲しむ方が辛いと思うのです」
「マオ…」
マオの言葉にティタンはこくこくと首を縦に振った。
「しかし、ティタンがこのようになったのは俺のせいだ。恨まれても仕方あるまい」
「ティタン様はそんな男じゃないです。それはエリック様が一番知ってるはずですよ?」
すりっとティタンがエリックの手に顔を擦り寄せた。
出来る動作が少ない。
何とか伝えられればと考える。
「そうだな…ティタンは優しい男だから、俺を責める事などしないだろうな」
エリックは猛獣となったティタンの頭を撫でる。
どんな姿になっても大事な弟だ。
触るのを厭うことも怖がることもない。
「必ず元に戻すと約束する。暫くの間だけ我慢してくれ、一緒に頑張っていこう」
「ぐるるっ」
ティタンは満足気に目を細めた。
「ティタン様、喜んでるですよ。僕も頑張るです」
マオが後押しをする。
「マオは言ってる事がわかるのか?」
エリックの問いに、マオは顎に手をあて考えた。
「何となくですが、わかるです。一応ティタン様の従者なので。あと…」
そっとティタンの首の下に手を入れる。
そこを撫でると自分の意志と無関係にティタンの喉がぐるぐると鳴った。
「行動がほぼ猫なのでわかりやすいです、僕は猫好きなので」
猫?!
心外だと思い、逆らいたいけど、心地良さに逆らえない。
ティタンは複雑な気持ちだった。
その後、ティタンの父母と弟、そして義姉のレナンが会いに来てくれた。
父と母は嘆き悲しんでいるが、
「どのような姿になっても愛している。生きていてくれてよかった…」
と、ティタンを抱きしめてくれた。
レナンも嫌悪する事なくティタンの前足を握り、
「わたくしも是非お役に立ちたいです。出来ることがあれば何でも仰ってください」
と言ってくれた。
しかし、いくら姿が変わっても弟なのだからと、エリックが具体的な世話はさせてくれなかった。
そこは普通にヤキモチで。
弟のリオンも、
「ティタン兄様のような事例がないか、王立学校へ戻ってから内密に調べて参ります。どうか希望を持ち、諦めないでください。ティタン兄様なら大丈夫かと思いますが、姿が変われば心が蝕まれます。どうか気を強く保ってください」
と励まされた。
猛獣としての生活で、最初にぶつかったのは食事だ。
人間と違い、手が使えない。
食べるにも口や歯の形状が違うため、奥歯ですり潰せず、どうしても口からポロポロと落ちてしまうし、水も飲めない。
水も吸うという動作が出来ないので、舌を使うが、上手に掬えず苦戦してしまう。
「汚すのは仕方ありません、ですから気にせず食べる練習をするですよ」
食べられないままでは、それこそ命に関わってしまう。
大事なことだ。
マオが台を用意して、その上に深皿を乗せてくれた。
さすがに床から直接というのは、人としての矜持もあり、嫌だったので助かる。
あと低い位置は腰が痛くなるから、単純に有り難い。
この姿で生きるためには覚えることがまだまだあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます