番外編:猛獣になった第二王子①

「ーーっ!!」

エリックは言葉にならない叫び声を上げて目を開ける。


時間は深夜だ。


大量の汗と動悸が止まらない。


隣で寝ている妻を起こさぬようそっとベッドを降りた。


「っはぁー…」


一人庭に出てため息をついた。

何度も見てしまう悪夢に眠れない日が続く。


「エリック様、大丈夫ですか?」

「ニコラ…」


主の項垂れる姿に心配そうだ。

「お風邪を引かれます、お部屋にお戻り下さい」

「すまない、もう少しだけ…」

エリックは両手で顔を覆った。


「何故、ティタンが呪いを受けた?対象は俺だ、俺であるべきだった」

「…ティタン様はエリック様を護ろうとしただけです。誰も予想していなかった、責められるのは僕です。あれだけ近くにいて感知することが出来なかった」


久しくエリックを狙うものはいなかった。


それ故慢心していたのかもしれない。


微弱な魔力を感知したのは、ティタンが攻撃を受けてからだ。


直様犯人は見つけ、取り押さえた。


だからニコラはその場面は見ていない。




エリックははっきりと目の前で弟が変わるのを見たのだ。


苦痛に歪む顔、変わっていく体。

体を突き破るんじゃないかと思う程変形していく骨。

目の前が真っ白になりそうだった。

何を叫んだのかも覚えていない。


もとより記憶力がいいエリックだ。

悪夢として何度もその光景を見続けている、忘れられるものではない。


「大人しく俺が掛かっていれば、弟の人生を奪うことはなかった…」

「…あなたがいなくてはこの国が、民が路頭に迷ってしまいます。レナン様もティタン様も、あなたの力がなくば生きていけないのですよ」


ニコラとしてはティタンが代わってくれたのは、九死に一生を得るものだった。


エリック以外にこの国を統治出来るものがいるとは思えなかったし、ティタンはいわばエリックの盾だ。

第二王子とはいえ、その為に護衛として付き従っていたはずだ。

ティタンとてそれを覚悟の上で。


(だが、これでは…)


エリックの他者への冷たさは不信感の表れだ。


エリックは身内を大事にする。

信じる者が極端に少ない彼にとって家族は特別な存在だ。

その家族の安寧を奪われた事、それが自分のせいでとなるとエリックは自身を責める事を止めないだろう。


「いかなる手を使っても必ずティタン様を元に戻す術を手に入れます。ですので、エリック様はもうお休みになってください。レナン様も心配なさいます」


ニコラはエリックを自室にと送る。


「あの巫山戯た女…絶対許さない」

滾った怒りを抑えようと呪いをかけた女のもとへ向かう。


死すら生温いものを与えようと、ニコラは捕らえた女がいる地下牢へ歩みを進めた。




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