(本編Ⅰ:彼女に裏切られ女性不信になった僕は、ゲームを紹介した部下に溶かされる)
第5話
「すげぇ拾いもんだよ。
五次面接の役員評価シート、満点近かった。
よく見つけたな、あんな人。」
そうなのか。
凄いんだな、真中さん。
「欠点らしい欠点っつったら、高卒っていうくらいだけど、
職歴上必要な資格も疎漏なく持ってるし、
役職つくわけでもないなら、この枠だったら要らないわ。」
そっか。
「長く勤めてくれるなら、
大学に派遣留学させりゃいいだけだしな。」
そういう手もあるか。
ふつう、大学院に使うやつだけど。
「まぁ偶然もあってな。
今年の人事採用、高卒枠、不作だったんよ。
採用ゼロ。」
うちにまだあったんだ、高卒枠。
「大昔の事務一般職枠。
無くしてもいいけど、無くす理由もないやつ。
やろうと思えば派遣や特別職へ振り替えてもいいやつなんだけどさ、
採用枠だから、決定権者は社長。
現役社員もそこそこいるし、起案通すの、めんどくさいやつだよ。」
なるほど。
誰か偉い人が言い出して進めない限り、無くならない奴か。
下手に歴史が長いから、よくもわるくもレガシーが深い。
「ま、今回は人事部長代理の強力な推薦があったからな。」
ぇ。
砺波さんが??
「で、桑原。
あの娘、どういう知り合いなんだよ。」
(「そのゲーム、なんですか?」)
……心底説明しづらいわ。
「なにも。
同じ駅住みってだけだよ。」
「あー。あの始発駅な。
お前もさぁ、課長になったんだから、
もうちょっと近くに越したら?」
家賃あがるだろ。
「それくらい払ってるつもりだけど?」
三条から給料貰ってるつもりはないんだが。
「ひょっとしてお前、がめつい奴?」
なんでそこまで言われにゃならんのだ。
土日くらい、空気の悪いところにいたくないってだけなんだが。
「まぁ、直属の部下と上司だ。
うまくやれよ?」
何をだよ。
*
……うん。
さすが、隙がない。
一つの疎漏もない。作成書類の隅々に神経が行き届いている。
「これで結構です。
ありがとうございます。進めて下さい。」
二日で、起案様式を、ほぼ完璧に身に着けてる。
三年勤めてるみたいだわ。
真中さんのほっとした笑顔が美しい。
スーツ姿が凜としている。一つ一つの所作が見惚れるほど滑らかだ。
眼鏡とジャージ姿セットとは全然違う。
「失礼致します。」
真中さんが、
二人いたら、めちゃくちゃ楽になったのに。
……無理だ。絶対どっちかが異動させられる。
総務課なんて、過剰戦力にしてもらえる訳がない。
頓宮さん、他部署からも情報取ってくれたからなぁ…。
*
週末。
最寄り駅、駅前ビル内の喫茶店。
「申し訳ありません。
早く退勤させて頂いてしまって。」
いままでが長すぎたんだと思いますよ。
向こう、残業手当、でてなかったんですね。
「……は、はい。」
それなら、退勤が早くなって悪いこともないかと。
失礼ながら住所地、埼玉県だったんですね。
「……恥ずかしながら。」
地価が1万円強、違いますからね。
こだわりがなければ、合理的な選択です。
「……。」
引っ越されます?
「ぇっ!?」
?
どうされました?
「あ……。
いや、そんな、はい。
別にいま、困ってるわけではないので…。
自転車で通えば、7分くらいで着きますし。」
北口だと、自転車置き場から少し、歩くでしょう。
「そうですね。
ですが、それくらいは。」
ふふ、元気だなぁ…。
総務よりは営業向きじゃないかと思うけどなぁ。
なんで砺波さん、こっちに向けたかな。
「……なにも、かも、夢みたいです……。
重ね重ね、なんと御礼を申し上げて良いのか……。」
御礼を伝えるなら、
こちらではなくて、門地さんです。
「……ほんとに言った。」
「?」
「い、いえ、なんでも。」
社内はどうですか?
「……雲泥の違いです。
みなさん、よくして下さいます。」
総務課は皆、結婚してるからなぁ。
変な話になりようがない。
営業行ったら違う話になったかもだけど。
あぁ。
それなのかな、ひょっとして。
だとすると、歓送迎会は、ちょっと気を配らないとかもだなぁ。
……ふふ。
気を配る、だって。
こんな綺麗な子、交際相手が当然いるだろうに。
ちゃんとした相手だといいんだけど。
そういえば頓宮さんの旦那君、一度、挨拶に来たよな。
ちょっと太ってたけど、心映えがしっかりした子だった。
彼と一緒に名古屋に行きたい、っていうんだから、
頓宮さん、しっかり愛されてるってことだろう。
「……あの、桑原課長?」
あ。
「……ここは、会社の外ですから。」
「も、申し訳ございませんっ!」
……そこまで謝られるような話でも。
「……じゃあ、その、
……いや、それはいくらなんでもっ。」
??
「………
はっ!?!?
も、も、申し訳ありませんっ!?」
な、なんなんだ??
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