第12話 初夢で院長に その結末は・・・

 「今週は何かいいことありましたか? 私ね、思うんですよ。人生には楽園が必要だってね。」というナレーションで始まるテレビ番組「人生の楽園」は、私たち夫婦にとって土曜日夕方のお楽しみ。


 番組が始まったのは2000年10月7日で、私たちが東京の国立国際医療センター(当時)へ転勤したのも同じ10月の31日だったから、12年以上も見続けてきたことになる。


 現在は西田敏行と菊池桃子のナレーションだが、私たちは当初のいかりや長介・伊藤蘭ペアの掛け合いが大好きだった。


 いつかは主人公夫婦として取り上げられることを夢みて、決まり切った番組作りを飽きもせず眺めている。


     □  □  □


 津波前の岩手県陸前高田市には、大町クリニックという大変評判の良い診療所があったそうだが、院長先生も亡くなったため休診状態である。

 震災から2年になることを機に、その大町クリニックが再開することになり、院長を探しているという情報が飛び込んできた。


 岩手県立高田病院でクィーンズクリニックを開設して以来、陸前高田で婦人科診療が必要とされていることは実感していたので、大町クリニックで婦人科診療ができるかどうか問い合わせてみた。

「婦人科はもちろん、(私の)希望どおりに診療所を運営していい」という返事を頂き、陸前高田の女性のためにもうひと踏ん張りしようという気になった。


 大町クリニックは旧市街地にあり流されてしまったため、開設するには新規に土地を探して診療所を建築する必要があった。

 しかし、復興バブル(?)に沸く被災地での作業には、時間も費用も平時の想定をはるかに超えてしまう。


 そういう窮状を救ったのが、旧レストラン・クローバーのオーナー。

 45号線沿いのオシャレなレストランだった建物を改装して大町クリニックに転用するというアイデア。

 さらに、同じ敷地内へ院長住宅を増設することも考慮しているようだった。


 ビフォア&アフターの番組さながらに改装が進むさまを見て、「素晴らしい!」と叫んだ途端に初夢から目が覚めてしまった。

 残念ながら夢の続きは見られなかったので、「人生の楽園」の主人公として紹介されたかどうかは分からずじまい。


     □  □  □


 正月明けに高田病院の石木院長から聞いた話では、NPO(特定非営利活動法人)「風に立つライオン」から、県立高田病院へ婦人科用の移動診療車が寄贈されることになったそうだ。

 病院の敷地内に常設して婦人科診察室として使用するほか、陸前高田市内を移動することも考えているようだった。


 さらに、その運用に当たっては岩手医科大学から産婦人科医が派遣されてくるということで、現状からは予想もつかないような素晴らしい話である。


 しかし、昨年の3月に私が県立高田病院で婦人科診療をしようとしたとき、岩手県の医療局から待ったがかかったことを思うと、あの時どうして許可してくれなかったのかと非常に残念な思いではある。


 しかしモノは考えようで、私が内科でクィーンズクリニックを始めたことが、陸前高田における婦人科医療のニーズを証明したのだろう。

 その実績と市民からの声が、岩手県や岩手医科大学を動かすことにつながったのではないかと自負している。


 さらに石木院長からは、県立高田病院の内科医師数も充足してきたので、私を内科診療から外してクィーンズクリニックと禁煙外来に専従させるという話も受けている。


 この調子だと、3月末までだった私の診療応援期間が少し短縮しそうな予感がする。


 いずれにしても、震災後2年を迎える陸前高田市民にとって、医療の復興が着実に進んでいることは何よりだと思う。


(20130117)


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