第11話 陸前高田での10ヶ月

 三年日記という物を付け始めて、そろそろ二年目を終えようとしている。


 その日の出来事を書く前に、上段の去年の出来事を読むのも楽しみ。


 去年は夫婦でガーデニングに明け暮れていたり、蟻塚学設計事務所に「好日居」をお願いしたりと優雅な一年だった。


 一転して今年の記録は、被災地での独身生活だ。

 陸前高田の財当仮設住宅で友人たちに支えられて暮らしつつ、岩手県立高田病院の臨時医師として医療支援を続けている。


     □  □  □


 その時々の思いは、日記やフェイスブックの記録を眺めながらまとめ、「陸前高田 医療で震災復興を」として毎月一本は陸奥新報へ送った。

 その締め切りを意識したためもあってか、あっという間に迎えた年末である。


●「津軽」から「ケセン」へ(3月22日)

●津波から1年後の高田病院(3月29日)

●高田にもアップルロード(4月19日)

●婦人科診療の復興(5月17日)

●高田病院の支援医師たち(6月21日)

●陸前高田をタバコフリーに(7月19日)

●仮設住宅団地での日々(8月16日)

●ボランティア活動を楽しむ(9月20日)

●お薬手帳を常時活用する(10月18日)

●陸前高田市長も卒煙(11月15日)


 一面の雪で覆われていた陸前高田は、瓦礫を夏草が隠すように生い茂った季節も過ぎ、そして雪交じりの強風が吹き荒れる冬が巡ってきた。


 この10ヶ月間に、奇跡の一本松は切り倒され、コンクリートの公共施設も取り壊され、旧市街地の様相は随分と変わった。

 高台の造成も始まり、あちこちに住宅や商店が新築されて、少しずつだが街づくりが進んでいるのを実感できる。


     □  □  □


 高田病院での医療支援は、一般内科の合間に始めた「クィーンズクリニック」や「禁煙外来」だったが、夏以降はむしろそちらが本業になりつつある。


 もともと婦人科医療のニーズは高かったうえ、大震災後の医療弱者の増加によって、その必要性が顕著になったのだろう。

 しかし、婦人科の診療にあたっては、手狭な仮設病院であるうえ、正式な標榜科でないこともあって、物置状態の手術室を利用するしかなかった。


 さらに最近では、入院患者の増加に伴い病棟業務で手術室を使用する必要もあり、婦人科診療数を増やすわけにはいかなくなった。

 また、内科外来の看護師が婦人科診療の介助にあたるため、患者さんを待たせてしまうなど問題点も出ている。


 「禁煙外来」でニコチン依存症患者の治療にあたり、これまでに約30名の卒煙式を行った。


 そのほか、「タバコフリー・イン・陸前高田」というプロジェクトを立ち上げ、喫煙の危険性に対する啓発運動を進めている。

 これまでに、県立高田高校、市立広田小学校、市立小友中学校での授業、陸前高田市役所で職員研修会、そして市内小中学校の校長会議でも、「タバコフリー・イン・陸前高田」とお題目を唱えてきた。


     □  □  □


 仮設住宅団地での健康勉強会である「財当塾」も10回を迎え、財当仮設の住民以外にボランティアや地元紙の記者などの参加もあり、戸羽茂夫塾長をはじめとするスタッフは大張り切りだ。


 ちなみに、この10ヶ月間に掲載された記事は、東海新報(4本)、岩手日報(3本)、河北新報(1本)、朝日新聞(1本)である。


 このほかフェイスブックでも、「クィーンズクリニック」「タバコフリー・イン・陸前高田」「財当塾」の情報をリアルタイムで発信してきた。


 大勢の友人たちを残して陸前高田を離れるわけにも行かなくなった。

 2013年には、また別の形で「医療で震災復興」プロジェクトを継続していることだろう。


(陸奥新報 2012・12・20)

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