第7話 仮設住宅団地での日々

 仮設住宅団地のある小友町財当地区は、「岩手の湘南」と言われる広田半島の付け根部分にある。

 風光明媚な三陸海岸と温暖な気候に加えて、人情味の厚い土地柄も気に入った。

「ここの仮設は住み心地が良いよ」とか「近くに病院の先生がいてくれて安心だ!」とか、引っ越しの際、近所のおじちゃんたちが集まってきたほどだ。


 仮設での生活といっても、当初は寝に帰って朝食を食べるだけ。

 それでも、平日の早朝散歩や休日の探検散歩で、地域の顔見知りは着実に増えてきた。

 あちこち歩いているうちに地理が分かるようになり、外来の患者さんにも親近感を持って貰えるようになったのも散歩の効用だろう。

 道ばたで畑仕事をしているおばあちゃんに声をかけると、かならず「どちらから?」と訪ねられる。

「弘前から高田病院の応援に来ています。」

「それはありがとうございます」という遣り取りのあと、財当仮設で暮らしていることや石木院長と青森高校で同期だったことなど身の上話をした上で、クィーンズクリニックや禁煙外来の広報活動も忘れない。


 近くにスーパーができたので、夕食も自炊することにして台所に立っていると、「せんせい、いる?」と声が掛かる。

 近所のおばちゃんたちから差し入れがある日は、パックご飯をチンするだけで自炊(?)完了!


 野菜や魚の煮付けは涙が出るほど嬉しいのだが、濃い味付けには舌がついて行けず、豆腐などで増量して2回分で食べる。

 貰うばかりではどちらが被災者か分からなくなるので、休みの日には妻の味を思い出しながら料理を作って配ることもある。

 それで気づくのは、私の手料理を食べてから、おばちゃんたちの味付けが確実に薄くなったこと。

 財当仮設の検食係をしているつもりで、これからも感謝しつついただくことにしよう。


 仮設の自治会長(トバシゲ)さんは市役所の保健畑OBだ。

「仮設の住民のために何かしたい」という私の思いを上手に活用してくる。

 土曜日の夕食後、仮設の談話室で行われる「財当塾」もそのひとつだ。

 現在は月例会として、私が健康ネタで話したあとフリートーキングになり、気がつけば飲み会になっているというものだが、今後は住民各自が得意分野ネタで話す機会も増やそうと考えている。


 トバシゲさんのお陰で、戸羽太市長とのアポも取れ「医療で震災復興」プロジェクトについて意見交換することができた。

 市長の情熱にほだされて、「高田病院での診療応援は来年3月末で終了ですが、陸前高田市における婦人科医療は何らかの形で支援したい」と言ってしまった。

 また調子に乗って、市長はじめ職員の健康増進についても、勝手連的に口出しすると宣言した。


 すっかり陸前高田に馴染み、財当仮設での生活が日常化するにつれ、それに埋没したのではないかと心配になる。

 …と言いながらも、「うごく七夕まつり」と「ツール・ド・三陸」では救護班、そして県立高田高校で「タバコフリー・イン・陸前高田」の講義など、益々はまり込むことになりそうだ。


(陸奥新報 2012・08・16)


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