第6話 陸前高田をタバコフリーに
一般内科外来を受診する喫煙者に聞くと、「震災後のストレス解消にタバコでも吸わないとやってられない」とか、「震災後に何もやることがないとき支援物資でタバコが配布されたので吸い始めた」などと応える。
典型的なニコチン依存症の思考回路だが、このような震災とタバコの二重被害者に対応するため、「医療で震災復興を!」プロジェクトの一環として、高田病院では禁煙外来を大幅にパワーアップした。
喫煙者がタバコを吸うと良い気持ちだと感じるのは、脳内のニコチン受容体から快楽物質が放出されるからだ。
しかし、ニコチンは短時間で無くなってイライラし始め、タバコを吸って満足するという繰り返しになるのだが、眠っているときだけは悪循環から解放される。
この仕組みを理解できない喫煙者は、喫煙によってストレスが解消したと勘違いをしているわけである。
実際、仕事や人間関係などが原因のストレスは、喫煙後も同じように残っているのだが、タバコ洗脳状態の喫煙者には受け入れられない理屈なのだろう。
高田病院の禁煙外来では、このようなニコチン依存症患者に対して、医師と看護師によるカウンセリング治療と、チャンピックスの内服治療とを三ヶ月間併用している。
禁煙治療薬のチャンピックスを飲むと、ニコチン受容体に結合して快感物質を少し出す。
さらに、ニコチンと違ってチャンピックスは、ニコチン受容体に結合している時間が長い。このため、もしタバコを吸ってもニコチン受容体はふさがっているから、新たに快感物質が出ることもなく期待はずれになる。
従来は呼吸器科専門医が「COPD外来」と「禁煙外来」を受け持ってきたが、今年の3月からは一般内科の喫煙者に積極的なアプローチを始めている。
さらに患者さんの利便性を考慮して、これまで毎週木曜午後だけの診療枠を月曜から金曜までひろげたほか、内科受診時に当日枠を予約して禁煙治療をすることもある。
世界禁煙デーの5月31日、高田病院の医師を中心に「タバコフリー・イン・陸前高田」が発足した。
このチームのミッションは、「医療で震災復興を!」プロジェクトの一環として、震災とタバコの二重被害者を救うこと。
具体的な活動としては、高田病院禁煙外来での診療のほか、巡回健康講演会での啓発なども始めた。
震災前から陸前高田市内の地区コミュニケーションセンターを巡回して健康講演会を続けていたが、昨年からは仮設住宅集会場も巡回先に加えて「お茶っこ」も楽しんでいる。
これから長いスパンで震災復興が続けられるが、ニコチン依存症という洗脳状態から解放された健康的な心身で、タバコフリーの陸前高田を目指してほしいものである。
ボランティアで高田を訪れた方々も、お茶っこの時などにタバコフリー・イン・陸前高田の趣旨を説明すると、「やめたいと思っているんですよ」と真顔で応えてくれた。
世界禁煙デーから6月6日までの一週間は禁煙週間で、平成24年度禁煙週間のテーマは「命を守る政策を!」である。
WHOのテーマは「たばこ産業の干渉を阻止しよう!」と更に過激だが、日本の場合は日本たばこ産業の最大株主が財務省という構造的な問題が立ちふさがっている。
草の根的な運動としては、「全国タバコフリー推進団体ネットワーク」が展開されている。
これは、主として医療・教育関係者を中心とする団体の集まりで、私たちの「タバコフリー・イン・陸前高田」も6月に加入した。
いずれは世界禁煙デーに合わせて、「タバコフリー・イン・陸前高田」と銘打って全国規模で集会を開こうと意気込んでいる。
(陸奥新報 2012・07・19)
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