10. ツアー最終日

鷹橋たかはしよる]


 ライブだ。全国ツアーの最終日。


 仙台からスタートし、大阪では二日間、その後博多に移動し、最後が東京で二日間と、四都市六公演のツアーだった。それを三週間で回る。あまり旅行経験のない僕には少し過密スケジュールではあったが、スタッフのサポートやバンドメンバーとの交流で、かなり楽しく過ごせていた。仙台では牛タンの有名店をはしごして、大阪ではたこ焼きをほおばり、時間を取ってUSJにも行けた。博多で初めて食べたもつ鍋は、内臓を食べるという抵抗など、消し飛ばすほどの美味さだった。……思い返すと食べてばかりな気もするが、まぁいいだろう。


 今何より気にかかっているのは、二人のことだ。ルカとリックには、春に会って今日の分のチケットを渡してある。来てくれるのだろうか。「もし気が向いたらでいいんだ」と何度も言ったものの、本心としては来てほしい、しかなかった。MCでは少しだけ、二人のことを話すつもりだ。


 リハーサルを終え、最終確認を済ませる。ツイッターにバンドメンバーとの写真をアップし、〈いよいよ最終日! 暑いけど気をつけて来てね!〉とコメントを添えた。


 お腹を膨れさせすぎないよう、ゼリー飲料を飲みながら僕たちは開演を待つ。影アナが入るとライブが現実感を増してくる。緊張と興奮の入り混じった感情で逸る心を静めようと、僕は深呼吸をした。


「よるさん、緊張してます?」


 Limさんが僕を見つめる。


「いや、そんなに、かな。してるけど、どっちかというとワクワクが勝ってます」


「さすがですよねぇ。俺なんかさっきから腹痛くて。もう六回目なのにね」


「私もですよ」


 はるかさんが胸を押さえながら言った。


「心臓バックバクです」


 僕たちは顔を見合わせて笑う。三週間、長い修学旅行のような時間を過ごし、すっかり深い仲になった。Limさん、イヌタさん、はるかさん。三人と向かい合い、僕は手を真っ直ぐに伸ばした。四人の右手が中心で重なる。


「最終日。楽しもう!」


「よっしゃあ!」


 次々に光り輝く舞台上に出ていく三人の後ろ姿を見つめる。観客の拍手と歓声が、闇に溶ける舞台袖にまで響く。僕は軽く息を吐き、光へと踏み出した。


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