第6話 あいつがどうとか俺にはどうでもいい



「ではこれにて会議は終わりだ。散々言うようだが、今回の間引きをして国民からの声が大きくなっているのを耳に入れておいてくれ。空いた穴は不安を煽る材料になるからな」


 国王様の締めの言葉で会議は終わった。

 一つ前の会議ではすべての椅子が埋まっていたというのに、今回の会議では半分以上空席だった。

 間引きというのはおそらく最近噂の裏切り者を裁いた、ということなのだろう。


 前回仲間の中に裏切り者がいるかもしれない、となったときに強く反発していた隠密隊の隊長の姿がみえず、鳥肌が止まらない。


 そんな中今回の裏切り者の間引きにイーズが一足絡んでいる、というのが納得できない。

 なぜ国王様は私たちとではなく、あのようなどこのものかも知らない男を信用したのだろうか。


 レッジェーリが会議室の椅子の上で一人考え事をしている中、後ろから近づく男が一人。


「レッジェーリ。少し時間いいか?」


「こ、国王様。申し訳ございません。今すぐ会議室から退室いたします」


「そうことではない。少し君と喋りたいことがあるだけだ」


 後ろから喋りかけてきた国王様は隣の席に座り、私のことを見てきた。


「私、なにかしてしまったんでしょうか?」


 まさか国王様は私のことを裏切り者かと思っているのだろうか? 


「別に何もしてないさ。裏切り者だと疑っているわけでもないから安心してくれ」


「ふぅよかったです……」


「で、最近君はどんな感じなんだ?」


「どんな感じと言いますと……いえ、申し訳ございません。受け渡された資料をこなし、滞りなく領地の運営もできています」


「俺が聞きたいのはそっちじゃなくて、君が個人的に調査している男についてなんだが」


 このような質問をしてきたということは、国王様はイーズのことを特別信用しているように見えていたが、別にそういうわけじゃなかったのだろうか?


「そうですね……。相変わらずまだイーズがペテン師だという証拠は見つけられてません」


「そうか」


「はい。以前接触して、二人っきりで喋ったのですがあの男の底が見えなかったです」


「そうだろうそうだろう。あいつはそういう男だからな。思い出せば、初めて出会ったときからどこかおかしかったな……」


 もしかしたらその話の中になにかイーズのことが隠されているかもしれない。


「詳しく知りたいです!」


「そんなこと言われてもな……。そんな深い話じゃないぞ」


「それでも知りたいです」


「それなら話すが……。出会ったのは俺が国王になろうと考えていたときだったかな。あいつは突然俺の前に現れてこういったんだ「俺ならあんたの望みを叶えることができる」とね」


 ずっと国王様とイーズとの出会いは謎だっだが、そういうことか。

 イーズはまだ国王様が国王様になる前にに自らが話しかけて、今の国王という地位までのし上げたのか。

 もちろんそこにイーズの力のみがあるわけではないのは重々わかっている。

 

「まぁそんな感じだな。これといって運命的な出会いをしたわけではないし、君の満足のいくような話ではなかったよな」


「いえ、話の内容に大小なんてありません。謎だったものが明かされ、大満足です」


「そうか。それならよかった。……つかぬことを聞くんだが、あいつは初対面で話しかけてきたとき俺のことを知っていたと思うか?」


「それは、客観的に見たらもともと知っていたとしか思えませんが、私は当てずっぽうだと思います」


「その理由は?」


「あの男の普段の助言スタイルを思い出してください。何も的確なことを言ってないんですよ」


「なるほど。それで当てずっぽう、と。言いたいことがわからなくもないが、もしそれが本当だとしたらあいつはものすごい強運の持ち主だな」


「ええ。ですから、国王様。あの男は何を考えているのかわからない危険な男です。なので今一度……」


「あいつがどうとか俺にはどうでもいい」


 レッジェーリがイーズとの関係を見直してほしい、と言おうとしたが国王の一言で黙らぜるおえなくなった。


「あいつは仕事としていつも助言をしてくれているが、実際のところあいつと俺とは協力関係のようなものだ」


「……と言いますと?」


「金がほしいあいつと、助言がほしい俺。この2つが成り立っているのならば、裏になにか後ろめたいことがあったとしても俺は咎めるつもりはない」


「ということは、私があの男の決定的証拠を持ってきたとしても裁かないということですか!?」


 レッジェーリはらしくもなく声を荒げ、国王に怒りの感情を向けた。


「少なくとも協力関係である今のままだと裁くなどありえない」


「っ!! 国王様。豪胆なお方だと存じておりましたが、あなたには失望しました。お先に失礼します」


 レッジェーリは先程までの喋り方から一変し、頭を下げ、会議室を退室した。


「まさかレッジェーリのやつ、俺があいつが偽物だということを気づいていないとでも思ってるのか?」


 一人残された会議室で放った国王の独り言は、去っていったものに届くはずもなかった。

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