第34話

料理人   やれやれ、まったくの邪魔者だ。

漫画家   どんなことがあっても、天使を襲っちゃいけません。

無職    はやくおいしいめしをくれ。

看護師1  助かりました皆さん、最後までお世話になりました、ありがとうござい

      ます。

旅行家   なんのなんの、終わりじゃねぇけど。

看護師2  それでは、えっと、検査の結果がでましたので。

声楽家   やっと終わりますね、長かった。

看護師2  それでは、3875番さんと3893番さん以外は退院となりますの

      で、説明を受けた部屋に集まって、そこで謝礼金を受け取って帰宅して

      ください。

料理人   はいっ。

旅行家   なぬっ。

看護師1  皆さん本当に、長い間お疲れさまでした。三ヶ月は休薬期間となります

      ので、それが過ぎましたら、また治験の参加をご検討いただけたらと思

      います。

無職    やったぁ、終わりだ。

漫画家   はあぁぁ。

会社員   これで帰れる。

声楽家   長かった。

料理人   ちょっと待て。

旅行家   番号違いか。

看護師2  申し訳ないんですけど、3875番さんと3893番さんは、ちょっと

      数値に異常がみられたので、もう一泊入院して経過をみさせてもらいま

      す。

会社員   おめでとう。

料理人   冗談じゃねぇぞ、てめぇ、涼しい顔して、なんて冗談を言うんだ。

会社員   入院中、ずいぶんと楽しませてもらったから、そのお礼だよ。

料理人   おいおいおい、なんて薄情な人間だ。

旅行家   まじかよ、もう一泊かよ、死んじまうよ。

料理人   なんてこったい、よりによって、こんなうるせぇやつと。

学生    お似合いっすね。

料理人   くそったれめ。

無職    残念だね、せっかく一緒においしいものを食べようと思っていたのに。

料理人   そうかい、なら、おれの代わりにもう一泊してくれよ。

看護師2  だめです、それは認められません。

料理人   待ってくれよ、それは冗談かよ。

漫画家   でもよかった、無事退院できて。

写真家   ほんと、ひとまず終わりだ。

会社員   さて、終わったらさっさと部屋を出ないと、一悶着があって、急いでい

      るだろうし。

看護師1  そうです、みなさん、すみやかに退室してください。

旅行家   待ってくれよ、なんだよこれ、この居残りは。

料理人   またかよ、一度目よりずっと堪えるぜ、これ。


次々と退室していく。


会社員   では、またどっかで会うかな、残りも頑張って。

学生    ほんと、今回は楽しかったっすよ、出てきたら連絡してください、みん

      なで飲み食いっすね。

無職    じゃあ、残念だけど先帰るね、宿で待ってるから。

声楽家   ほんと、今回はお世話になりました、まさか、こんなに人生に影響を与

      える治験とは思いもしなかったので、音楽の世界の狭い人たちとは違う

      すごい影響を受けました、ほんと、ありがとうございました、自分も試

      験が落ち着いたら、一度長期旅行したいので、計画しようと思います。

料理人   はいはいはい、わかったから、はやく出てって、苦しいから。

声楽家   退院したらみんなで打ち上げをしましょう、残りもがんばってくださ

      い。

料理人   がんばりませんよ、じゃあな。

旅行家   打ち上げかよ、まだ居残りも二度目の入院もあんのに、まるで気分じゃ

      ねぇ。

写真家   では、先帰りますので。

料理人   はいはい、帰って帰って。

旅行家   二度目はあいつと二人かよ、はあぁぁ。

漫画家   では、帰ります。まだパリに戻るのは先なので、宿で会いましょう。あ

      なたも、打ち上げで会いましょう。二人とも、旅行の話が興味深く、さ

      っきの話には感銘を受けたので、もっと話を聞かせてください、ほん

      と、日本の治験とは違って、人との出会いの素晴らしさを味わわせても

      らった、ほんと良い治験になりました。

料理人   うるせぇ、はやく出て行け。

旅行家   そうだよ、うるせぇ、次があるからとっとと消えろ。

漫画家   人との付き合い方に、なんか、新たな希望が見えたというか。

料理人   希望なんざねぇよ、はやくいきやがれ。

漫画家   はい、では、またあとで。


全員退出する。

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