第30話

第4場


八人と看護師二人がいる。


看護師2  それではみなさん、これで検査は終了したので、あとは結果を待っての

      退院となります。あと少しなので、もう少し待っていてくださいね。


看護師二人が退室する。


学生    やっと、終わりっすね。

無職    ほんと長かったね。

声楽家   副作用と暇を乗り越えて、もうすこしでゴールです。

漫画家   今回は副作用がきつかったから、格別ですね。

会社員   二人は、本当につらそうだったからな。

漫画家   正直、死ぬかと思うほどきつかったですよ、飲み過ぎでもあんなならな

      いですよ、ほんと、でも、だからこそ、金を受け取った時の感動が、も

      う目の前にあると思うと、やばいですね。

学生    金をもらう瞬間は、たまらないっすよね。

料理人   おれは、まだ、そんなぬか喜びはしねぇぞ。

声楽家   さっきから、やけに静かですよね。

旅行家   おれもだ。

無職    なんで、うれしくないの。

写真家   わかります、自分たちはまだあります。

無職    そっか、二人は、もう一度入院するんだよね。

旅行家   そうだよ、こんなくそみてぇなことを、もう一度だぜ。

学生    けど、あなたはもう終わりじゃないっすか。

料理人   おれは学習能力があるんだ、前回の退院の時、もう一泊させられたから

      な。

漫画家   ああ、そうでしたね。

声楽家   そうか、まだ帰れるか決まっていないんですよね。

料理人   あの時のショックは忘れねぇ、出れると思ってのもう一日、こんな薬く

      せえかごの中に、それもたった一人だけ。

無職    ああ、やだ。

料理人   旅行中でも何度あったか、行けると思って行ったところに行けずによ

      ぉ、手前で違うって言われたり、順調に運ぶことなんて、ほぼねぇんだ

      よ。

旅行家   その通りだ、パンクしたり、フレームが折れたり、なんでもありだぜ。

声楽家   経験豊富なんですね。

写真家   帰れると思ってのもう一日は、きついですよね。

料理人   道連れはいたほうがいいけどよ、できるなら、道連れを振り返って笑っ

      てやりてぇな、次は。

学生    そうっすよ、誰かと一緒であっても、延長なんて嫌っす。

漫画家   自分は、それほど嫌ってわけじゃないですけどね、一人で残っても漫画

      を描くだけですから、むしろ一人のほうが気楽ですよ。

料理人   やだやだ、おれはなぁ、おめぇとだけは一緒になりたくねぇな。

会社員   また、はっきり言うな。

無職    ええっ、やだ、誰ともやだ、ぜったい残りたくないし。

旅行家   おれはこいつだ、ずっと歌われて、夢に出るほどだ。

写真家   気づかずに口ずさんでましたね。

旅行家   みんな口ずさんでたじゃねぇか。

料理人   そりゃ、あれだけ染み込ませられたら。

会社員   自分は、最初から染み込んでいたが。

漫画家   でも、いざ退院になると、不思議と感傷的になりますね。

無職    ほんと、いつもそう。

学生    さみしくなるっす。

会社員   毎回知り合う人はいるけれど、今回はより親しくなったな。

学生    そうっすね、たぶん、けっこうしゃべる人がいるからっすね。

料理人   こんなもんじゃねぇの、わかんねぇけど。

旅行家   旅行してると、こんなんばかりだけどな。

写真家   そうでもないですよ、変わった人が多いからしゃべることもあるけれ

      ど、まるで仲良くならずに終わる人もいます。

料理人   ああ、あのゴキブリ野郎みてぇなのか。

無職    たぶん、まだ宿にいるし。

学生    あの人は、ちょっと、怖いっすね。

漫画家   ほんといい治験ですよ今回は、日本の治験なんて退院前でも安定した無

      言にあるから、ただ退院できる喜びが自分にあるだけです。

旅行家   無言なんて、とても無理だろ。

料理人   おめぇはな、おれもできねぇけど。

漫画家   まさにモルモットらしいですよ、口と覇気を奪われて、ただただ薬の実

      験体として時間を買われ、去っていくんですから。

会社員   病院側も、被験者側も、目的以外は余計をしないか。

漫画家   あっ、でも一度だけあったんですよ、喋ったり仲良くなったりしたわけ

      じゃないんですが、なんか、妙な同調というか、シンパシーというか、

      人間としての結びつきを感じたことがありました。

写真家   へぇぇ。

料理人   なんだ、なにでもしたのかよ。

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